鋼鉄の男。・・・3

会う時は寿司屋が多かった。
それほど頻繁に会うことはなかったのだが、
ウィスキーの味を確かめながら語る言葉には温もりがあった。

「元気にしていたか?」
「仕事は順調か?」
「例え今順調でも、どんな困難がいつ起こるか分からないから
 仕事に臨む時はいつでも腹をくくる覚悟を持ちなさい。」
これらは叔父さんの定番の口癖だった。
そして決まって別れ際は柔和に微笑みながら、
「何か困ったことがあったら、いつでも訪ねてきなさい。」
と言っていた。

*************************

通夜・葬儀には、平日にもかかわらず、多くの人が訪れた。
中でも会社関係の人が多く、通夜の席では同年輩と思われる方々の話を多く聞いた。

「組織が疲弊してしまっている時に、誰かが献身的・能動的に動かなければならない。
 頭では分かってはいるのだが、なかなか出来ないことだ。
 そんな時に決まって頑張るのは彼だった。」
「擦り切れず何度もカムバックした不屈の精神の持ち主だった。」

そんな話からは、やはり会社組織に尽くしきった人という印象しか伝わらない。
そう言う側面があったことは否定しない。
だが、本当にそれだけの人だったのだろうか?

『悲しみを知るものしか、他人の悲しみを知ることは出来ない。
 自分で苦しまぬものが、他人の苦しみなど理解できようはずがない。』
どうして僕はそう思い、そう信じるようになったのか?

僕の母に怒鳴られるのは承知で叔父さんは、
「きゅびちゃんの面倒を私に見させてくれないか。」
と何度も願い出たことを、最近僕は知った。
いや、そんな事実を知ろうが知るまいが、
僕の閉じかけた心を開いてくれたのは叔父さんだった。
普通享受する血縁者の温もりは、まぎれもなく叔父さんが教えてくれた。
傷に寄り添ってくれた。

今となっては、その人生がどんなものだったのかは、部分的にしか分からない。
だが叔父さんの足跡の中に、責任ある行動の中に、
誰よりも深い苦しみや負ってきた悲しみを僕は見てしまう。

だからだと思う。
温もりがあった。
そう。それは温もりだった。

誰も言わないから僕が言おう。
叔父さんは、鋼鉄じゃない。不死身じゃない。
苦しみも痛みも十分に知っていた。
何故苦しいのか、何故痛むのか、十分に知っていたのだ。
そんな人が「会社に尽くした企業戦士」では、断じてない。
自分が負った熾烈な社会的責任を、優しさ故に全力で全うしたのだ。
叔父さんは僕に、優しさとは強さだと示したのだ。

叔父さんのことを思う時、優しさとは何かを自分に問わずにはいられない。
自分は人に対して優しさを示すことは出来るだろうか?
口先だけではない、行動と責任を伴った、本当の優しさを示せるだろうか?
強さを伴った優しさを示せるだろうか?

その回答は僕には出来ない。
僕は、叔父さんがそうしたように、預けられたバトンを握りしめて
ただ、今を精一杯生きるのみだと思う。
いつか僕の命が尽きる時、バトンを引き継いでくれる人がいるかどうか。
それこそが僕の、バトンを託された者の、評価だと思う。

*************************

火葬場で叔父さんの骨を拾った。
ほんの数時間前に触れた頬も、さすった足も
白く軽い骨に変わっていた。
不意に、「よだかの星」の一節が胸に迫った。

『それからしばらくたってよだかははっきりとまなこを開きました。
 そして自分の身体がいま燐の火のような青い美しい光になって、
 静かに燃えているのを見ました。
 すぐとなりは、カシオピア座でした。
 天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。』


                                    (終)
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Commented by osakaken at 2011-10-06 22:12 x
書きたい事が山の様にアリ・・鍵かけて綴りましたが 止めておきます。
いつか いつか・・昇華出来る日が来たら 飲みながら語り合いましょう。
出会うべき人に 出会って生きて来れて 良かったですね。おじ様も きっとそう感じておられたと 思います。
Commented by masshy85 at 2011-10-06 23:18
男同士の関係だな、って。
叔父さんは僕に、優しさとは強さだと示したのだ。

そうですね。強くないと優しくなれないし、
そしてまた時として厳しさを伴いますよね。

いい物読ませて頂きました。
ちょっと仕事上で凹む事があったので、響くなぁ!
Commented by hinemosunorari at 2011-10-07 09:37
■大阪ケンさん
むむっ!その山のように綴られたコメント、
読んでみたいと思いました!
飲み語りは得意分野です・・・とかアピールしてみます。
(最近は気絶しながら語るという新技も習得しました)
ぜひとも実現させましょう!
Commented by hinemosunorari at 2011-10-07 09:46
■masshyさん
日常的に凹んでいる人が書く文章ですから、
凹んだ人の胸に響くのかも知れません^^;;
(自分で書きながらガッカリ・・・ドヨォォ─(lll-ω-)─ォォン)
しかし、masshyさんが凹むような事態が発生したのですか???(-公- ;)
Commented by masshy85 at 2011-10-07 21:53
意を決して引き受けた新しい会場でのレッスンが
生徒さんの都合により無くなりそうなの。
今、長年やって来たエレクトーンがどんなに厳しい
状態にあるのか、他の特約店の会場に行って再確認しました。
経済的な理由で辞めざるをえない子供もいたりして。
生徒がいなくなるのって辛いです。
一昔前ならすぐに次の生徒が入って来たりした物ですが。
Commented by hinemosunorari at 2011-10-08 03:50
■再び、masshyさん
それは残念ですねぇ><;;
とはいえ、masshyさんに非があるわけではないのも事実。
従来同様、ココロ豊かになるようなレッスンを続けていれば
そこに魅力を感じた人が集まると思います。
表現する方法は数あれど、音楽に代わるものはないと思うのです^^
Commented by masshy85 at 2011-10-09 00:02
きゅぴさん、ありがと!
Commented by hinemosunorari at 2011-10-15 19:27
どういたしまして!
by hinemosunorari | 2011-10-06 19:07 | 日々のよしなしごと | Comments(8)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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