人はパンのみにて生きるにあらず(3)

今日に別れのキスを。
明日を向いて生きて行こう。
過ごした日々 すべてを賭けたこと
忘れない 悔いはない
すべてを賭けて愛したことを。

   ~ミュージカル"A Chorus Line"より「what I did for love」

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「全霊を注ぐ」ということに触れながら書いた前回の記事で、
全力には伴う危険があると書いた。強い輝きは決して永続しないのだ。
まばゆく放つ煌めきは強ければ強いほど、それはまるで永遠のような一瞬。
そう。輝くことが出来るのは、ほんの一瞬でしかないのだ。
それを皆どこかで感じて知っているからこそ、人間が全力で挑み、
ぶつかる姿に共感し、深い感銘を受けるのではないだろうか。

唐突だが、ここで僕が仕事を共にした事を忘れられない人物を、
歌手タレント以外で三人挙げよう。
土居さん、小井戸さん、そしてバイヨークさんである。
日本の歌謡界でその名を知らぬ人はいない存在であるお二人に関しては、
今更説明するまでもなかろうが、バイヨークさんと聞いてすぐにピンと来たら、
一般的にはかなりの通といえよう。

 補足:1976年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞など9部門受賞を果たした
    ミュージカル "A Chorus Line"のオリジナルキャスト(コニー役)。
    再演版の振付・演出も担当。

何故忘れられないか?
それは、決してビッグネームだからなのではない。
一つの挙動、一つの踊り、一つのステージ、一つの作品に傾けるエネルギーがもの凄いからだ。
こればかりは、ちょっと文章では伝えられない。
「一生懸命」なんていう言葉が陳腐に聞こえてしまうくらい。
その情熱のエネルギーたるや、例えるなら洪水のようであった。

先日、ふとしたことがきっかけで「EVERY LITTLE STEP」というDVDを購入した。
ブロードウェー再演版"A Chorus Line"のオーディション風景を追った
とても秀逸なドキュメンタリー映画である。
当然、バイヨークさんがダンサー達に振り付けているシーンなどがバンバン画面に出てくるので、
そのエネルギーに圧倒されたりするのだが、この作品の肝はそこではない。
本物のダンサー達の生き様こそがこの作品の核である。

虚飾を捨て、孤独な自分と向き合い、ひたすら厳しく厳しく自分を磨き上げる。
絶望にも似た途方もなく苦しい修練の末に身につけたダンス・歌・演技といった技術は、
明らかに他とは一線を画し、まるで磨き上げられた剣の切っ先のように、
観る者の心をつらぬくのだ。
長くなるのを承知で、映画の中から一つだけインタビューシーンを紹介しよう。

 「父はバレエのダンサーだけど、膝を大手術したの。
  憶えているわ。父が泣きながら言ったの。
 『何てことだ。致命的だ。二度と踊れない傷を負った。』」

一人の女性がカメラにそう話した。
彼女は最終選考まで残ったオーディション応募者である。
そして、年老いたがかつて一流バレエダンサーだったその父が
これから最終選考に挑む娘と、過去に舞台を愛した自分とを重ねて、
慈しむような優しい表情でこう回想するのだ。

 「体操の選手なら、肩を壊してもオリンピックに出るだろう。
  農夫なら、両手に堅いタコをこしらえても、畑を耕し続けるだろう。
  身体の傷は報いだ。
  明日のことは分からない。
  だから毎晩が舞台の初日であり、千秋楽でもある。
  何もかも不確かだ。

  ダンスは自分のすべてで、『宇宙』だ。
  最もつらいのは・・・踊れないこと。
  膝を壊したのは40歳を過ぎた頃だった。
  重傷で病院に担ぎ込まれ、宣告されたんだ。 
  『もう踊れない。』
  と。

  つらかった。
  『私はダンサーだ。』と認識し始めた時に踊れなくなった。
  では何者だ?
  だが、振付家のG・バランシンから電話で『いつ復帰できる?』
  6週間後、私は舞台に復帰した。
  踊り終えた時、私のシューズは血まみれだった。」

そして、最後に彼は愛する娘を抱き寄せ柔和にこう言うのだ

 「だから私は『コーラスライン』が好きだ。
  愛したことに悔いはないから。」

すべての恐れを、すべての不安を、すべての苦悩を、払拭するもの。
すべて賭けて全身全霊を注ぐエネルギーの根幹にあるもの。
それは「愛すること」なのではないだろうか。

(つづく)
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Commented by masshy85 at 2011-01-21 23:19 x
そうやって全身全霊でステージに立っている人達が
やっている物だから、
心を打つのですね。
特に生のステージではそれがびしびし伝わってくるから。

今日は圧倒されてしまいました、きゅびさんに。
Commented by hinemosunorari at 2011-01-22 09:57
■masshyさん
そうですか、されてしまいましたか!
あの糸ひいてネバネバしてて、醤油かけて食べると
案外美味いやつですよね?・・・それ、圧倒じゃないですっけ?
彡(-ω-;)彡ヒューヒュー
さて、携わる人ほど「LIVE」であることの重要性を知っています。
どれほど時代が進もうと、3D技術が進歩しようと、
記録媒体じゃないLIVEだけが伝えることの出来るメッセージが
確かにあるのですね。それを忘れていない人がいるだけで、
とっても嬉しい気分になれます。(o゚∀゚)ノありがとー
Commented by masshy85 at 2011-01-22 10:52
そう、音を間違えようが台詞をとちろうが、
生でなきゃ味わえない物って絶対あるのよね。
だからわたしもそれを提供する事を続けているし、
義理でも見に来て感じてほしいと願っています!
Commented by meron33ninja at 2011-01-22 12:48
うんうん わたしも感動してあっちっち・・って あ、これ 熱湯?
(*^m^*)
ライブの感動は手に汗にぎりますね、
あの空気に触れることで何かを感じ取るのですね・・
その場所でどれほど完璧に演じきるか・・プロの道は険しいですね・・
そんな場所でお仕事できるhinemosuさんもまた 同じ緊張感を
味わっておられるのでしょう・・・
ミュージカル見に行きたくなりました~
お勧めあったら 教えてください~
・・・と こんな コメントで許してもらえます? すみません~
私 根が 不真面目・・・・トホホ・・・
Commented by どん at 2011-01-22 20:09 x
すてき!
ライブ、舞台は大好きです。
毎回(ってもそんなに数はこなしていませんが)
舞台に立ってる人たちを観て、その内容にも感動しますが
その道をめざし、続けていることに大感動します。
ってか鳥肌立ちまくりです。
それが気持ちいいんですよね。
なんか生きてるってのを目の当たりにしてるようで。
で、観に行った帰り道は必ず、私も今からでも何かに夢中になるぞ!
と誓うのですが…んーーーー
Commented by hinemosunorari at 2011-01-23 11:28
■再び、masshyさん
渾身の納豆ギャグを見事にスルーされてしまって、
しばらくは納豆を見るだけで涙が出ることでしょう。
納豆食えども、納得はせず。・・・ううむ、くるしい。
ドヨォォ─(lll-ω-)─ォォン
Commented by hinemosunorari at 2011-01-23 11:52
■meronさん
人間、タフであるためには不真面目であらねばならないのです。
(↑ホントかよ。)
好みは人それぞれですので、オススメ作品は挙げづらいですが、
どんな作品であっても、中通路より前の席で観劇されることを
強く強く勧めます。
日本の劇場は、ほぼすべての作品にとって大きすぎます。

あと、ライブではないのですが、「every little step」。
邦題は「ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢」。
コーラスラインを観たことがあっても無くても、とても楽しめます。
とりわけ本場ブロードウェイの歌にしてもダンスにしても演技にしても、
画面で見ただけで震え、鳥肌が立ち、泣かされます。
むしろ、ミュージカルのハズレ作品を国内で観るくらいなら
tsutayaあたりで数百円でこの作品借りられますから、
まずはこちらで本物を体感してみると良いと思います。

作品概要なんか読むとつまらなそうなんですけれども、
良い方向に大きく裏切られる、希な一品です。
んー、amazonのレビューなんか参考になりますよ^^
Commented by hinemosunorari at 2011-01-23 12:05
■どんさん
同感。最後の「んー」なんかも、同感。
ショービジネスの世界って、日本の場合最後にものを言うのは
プロダクションパワーだったりすることが、多くあります。
「every little step」はそれとは対極にある作品。
オーディションによる生存競争ですから、半端な厳しさじゃないです。
愛がなければ耐えられない世界。
言い換えるなら、どれだけ真摯に愛しているかが問われる世界。
本来はマスコミを含めてすべてのセクションがそうあるべきだと
思うんですけれどもね~。
・・・よって僕は昨今のTV番組はほとんど嫌いです。
Commented by masshy85 at 2011-01-23 20:08
納豆ね、ちょっと鈍かったね、わたし。

ほんと、オーチャードとかせめて1階、できれば通路の前後で見たいですよね。
一度舞台の上の客席で見た時はびっくりしました。
文化村のシアターコクーン。
Commented by osakaken at 2011-01-24 19:33 x
ホンモノに幾つ出会うか・・そしてホンモノだと気が付くか・・それに尽きるなあ・・。
大人もそうだけど・・こういう話は子供に聴かせてやりたい。

仕事する大人・・仕事を愛する大人・・プライドのある大人・・
たくさん聴かせ 見せて・・その中に子供を放りこみたい。

NYでまた ミュージカルみたいなあ。

Commented by おおちゃん at 2011-01-28 22:49 x
今日に別れのキスを。

私事ではありますが、諸事情により「Ⅱ」のブログを閉鎖
することにいたしました。

今まで通り、きゅび様のブログ訪問はさせていただきたいと
思っていますので、よろしくお願いいたします。

素人、本読みブログ「想いをのせて」は健在ですので、
お暇がある時にでも開いて下さい。
Commented by meron33ninja at 2011-02-06 12:27
ながらく更新がありませんが お仕事お忙しいですか??
見ましたよ!お勧めの↑「コーラスライン」と 「ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢」
すばらしかったです~!
わたしもバイヨークさんのような 情熱的なエネルギッシュなレッスンしようと思いましたです~!オーディション !聞いただけで鳥肌がたちそうですが そういう状況に打ち勝つ人が残るのですね・・・当たり前ですが・・
また なにかお勧めがあったら おしえてくださ~い!
Commented by osakaken at 2011-02-07 08:32 x
お陰さまで 台湾でのお式参加を終えました。そしてご心配いただいた方も なんとか治まりまた 平穏な暮らしに戻っています。写真展は続行中です・・少し多忙な中で そういうモロモロを挟み込んで 暮らす事で 新たな力を得るのが 私らしいようです。ところで・・・先日 疲れが貯まるので 土日と続く時は京都泊りを許してもらっていたら・・なんと友人がプチ家出して同宿。夜半過ぎまで話を聴いて・・疲れた~~~と帰宅しました。どうにも ならん!そんなことは世の中 ありますね!
どうぞ きゅびさまも お疲れがたまりませんように!
Commented by hinemosunorari at 2011-03-22 15:00
■三度、masshyさん
諸々ありまして、強烈な遅レスです(ノД`)・゜・。シクシク
無理なオヤジギャグですから、気にしないで下さい;;
あと、舞台上の客席。「ファンタスティックス」ですね!
夏に公演予定の、亜門さんの「スウィニードット」面白そうですよ^^
Commented by hinemosunorari at 2011-03-22 15:06
■大阪ケンさん
まさに!その通りだと思います!
・・・というか、強烈な遅レスですみません(*- -)(*_ _)ペコリ
子どもにはぜひ、本物から多くの影響を受けてもらいたいと思っています。
環境を絞り込みすぎるのも問題ありますけれども、
子どもの人間的な裾野は、いくらでも広げてあげることが
出来ますものね^^

Commented by hinemosunorari at 2011-03-22 15:09
■おおちゃんさん
過激な遅レスで申し訳ございません。
『Ⅱ』の方の閉鎖、残念です><;;
先ほど行ってみたところ、既に跡形もなく(ノД`)・゜・。シクシク
まぁ、でも好きだった本の方が残っているから我慢します!
あー、最近本読む暇がない><;;
Commented by hinemosunorari at 2011-03-22 18:28
■meronさん
重度の遅レスで申し訳ございません。
本当にまともにブログをする時間が確保できず、
歌謡に遅いお返事となってしまいました><;;
ま、このお返事も滋賀県への移動中にしたためている次第です;

さて、コーラスラインにかける夢。おもしろかったでしょう!!
本当に秀逸なドキュメントだと思います^^
他にもブロードウェー作品関連では、ロブマーシャル版「CHICAGO」や「ヘアスプレー」なんかがおすすめです^^
Commented by hinemosunorari at 2011-03-22 18:30
■またしても大阪ケンさん
度重なる遅レスをお詫びするにつけ、強烈に胸が痛む今日この頃です。
また、諸々お気遣い頂きまして、恐縮至極です。
疲労は確かに蓄積するのですが、いろいろなところで
巧い具合に元気や勇気を頂いているので大丈夫です!
Commented by 素人童貞 at 2011-06-09 12:55 x
素人童貞にコンプレックスを感じてる男子諸君!!童貞男子好きの肉食系の女性が集まるこのサイトで童貞を奪ってもらおう!!
Commented by hinemosunorari at 2011-06-12 23:21
■素人童貞さん
ご苦労様です。
一体全体どんなリサーチをして僕がコンプレックスを持った素人童貞だと知ったのでしょうね。
暇だったら「じゃあプロの童貞とかいるのか?あ?」とか
突っ込みたくなるところですけど、
暇じゃないし、モノがモノだけに気安く「突っ込む」とか言うのはやめておきましょう(キ▼д▼)y─┛
by hinemosunorari | 2011-01-21 05:02 | 日々のよしなしごと | Comments(20)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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