続・紙飛行機の夢。

「往復ビンタ」というものがある。
一発いいのをお見舞いされた直後に油断していると、返す手で再度頬を張られるってやつ。
効くんだよねぇ、とりわけ美女にやられると。

紙飛行機の夢。」と題した男の切なさつらさを記事にしたのは、2006年の4月の事だった。
着地したいところに、必ずしも無事に着地出来る訳ではない、紙飛行機。
それは、男と女も少し似ていて。

千秋楽公演を間近に控えたある日、青山劇場での本番終了後。
携帯に留守電のメッセージが入っていた。恐らく本番中にかかってきたのだろう。
「きゅびくん、お久しぶりです。お元気ですか?
 今度時間のある時に会いませんか?よかったら連絡下さい。」
聞き覚えのある優しい声の主は、かつて愛した女性だった。

ズキンと胸が痛んだ。
3年前に連絡をもらった時、思うところあって一方的に無視を決め込んだ。
間違った事をしたとは思っていないが、他にもう少し穏やかな手段があったかも知れない。
そういう自責の念がないでもなかった。

劇場からの帰り道。
部下や仲間の誘いを断り、携帯の電源を切り、馴染みでも何でもない店に入る。
騒音の中でただ一人になりたかった。
一人になってじっくりと見極めたかったのだ。
何故胸が騒ぐのかを。
アイツは誰で、俺の何で、俺は一体何なのかを。

多くの方、とりわけ女性は嗤うだろう。女々しいと。バカだと。
嗤いたくば、わらうがいい。
だが、僕は信じるのである。
抱えた傷を大事に出来ないようじゃ、男失格だと。
女性に恋と化粧があるように、男には痛みと見栄とがあるのである。
ああ、面倒くさい。

強めの酒を飲んで、グラスに残った氷がカラリと鳴るたびに、
様々な事を思い出した。

シャンプーの香り、彼女の笑い声、ダージリンティー、切りすぎてしまった前髪、遠浅の海、
サマーハットと海鳥の鳴く声、彼女が砂浜に貝でつけた印、世界の中心、最初のキス、
そして、空港で僕の胸を小さな拳で叩きながら泣いた事。

どれもこれも、単なる「思い出」ではなくて、今の僕を形成した重要な要素である。
僕にとって、それら記憶の断片は血であり骨であり肉であった。

最後に会ったのは、二人とも仕事を始めていた頃。
何年かぶりの再会だった。その別れ際に彼女はこう言った。
「私、この世界で頑張って雑誌で紹介されるくらいまでなってみせるから。
 だから、きゅびくんも仕事頑張ってね。」、と。

白状するならば、嫁と出会うまでのその後何年もの間、僕を支え続けたのはこの一言だった。
「どこかでアイツも頑張ってるんだから、俺もこんなところで足踏みしてちゃダメだよな。」
仕事でつまずくたびにそうやって自分を鼓舞していた日々を思い出した。

何杯飲んでもさっぱり酔えず、悩みに悩んだ末に自宅に戻ってPCの前に座った。
留守電で教えられたアドレス。
僕はポツポツとメールを書き始めた。

まず最初に、再度連絡をくれたお礼をして、次に3年前の一件の無礼を詫びた。
難渋するかと思いきや、書き始めたら案外スラスラと思いを綴る事が出来た。
そして、やはり会えない事を今度はきちんと伝え、僕を支えてくれた一言の事も伝えた。
色々な事を言いたかったが、どうしてもこれだけは伝えなければと言うのは、
やはり彼女への感謝の気持ちだけだった。

返信は、その日のうちにあった。
詳しい内容はここで書くわけにはいかないので省略するが、
人の書いたメールを泣きながら読んだのは、初めての経験だった。
いやぁ、本当に効いた。

ともあれ、一つの人間関係が終わった。
知り合ってから今日まで、約22年間。
22年書き続けてきた日記が、ようやく最後のページにたどり着いたような
なんとも清々しい心境だった。

その晩、僕は夢を見た。
昔、彼女と二人で出かけた犬吠埼の岬から、紙飛行機を飛ばす夢。
僕と一緒にいるのは、嫁と颯一郎とジル。
砂浜ではしゃぐ家族を横目に見ながら、潮風に乗せて紙飛行機を飛ばすと、
それは僕の周りを何度か大きく旋回して、空高く飛んでいった。

『お元気で。
末筆になりましたが、 きゅびくんのご健康とご活躍を、
心からお祈り申し上げます。
たくさん ありがとう。
過去のことも、その存在の全てに。』
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Commented by きゅび at 2009-01-26 01:53 x
ところで、この記事。遅かれ早かれ嫁様に読まれてしまう場合、
一体どう対処すればよいのだろう・・・( ̄ロ ̄;)
Commented by ☆ふーが at 2009-01-26 02:25 x
すべてひっくるめて、素敵ですね。
奥様は ご理解くださると思いますけど~(*'ー'*)
Commented by きゅび at 2009-01-26 08:34 x
■ふーがさん
 しかも、しかもですよ?今頃気がついたのですが、僕のブログは親戚一同も
 しばしば立ち寄ったりするとゆージジツ。
 どーしよー。ドキがムネムネです。
Commented by きとちみ at 2009-01-26 12:38 x
↑まぁ、アーティストというものは、自分の表現を人様に見てもらってナンボだから。
言うなれば、己の切り売りだ!
あきらめなさい。
Commented by どん at 2009-01-26 12:59 x
ステキ★

こうゆう歌詞は男性が好みますよねぇ^^
でも女性側にとっても嬉しい事です。

前の人がすっかり忘れられるなんて
そんな恋愛をしてきた方が悲しいですものね。
私なんておんぶにだっこに手提げにキャリーバックで
ズルズルですもの。
少しは減らさないと^^
Commented by sao at 2009-01-26 15:19 x
大丈夫よ。現在進行形のことを書いたら、アナタはただのアホで死ななきゃならないけど過去の事でしょ。 そんな了見狭い女性と添い遂げたわけでもあるまいし。

ビビってんじゃないわよ。
Commented by きゅび at 2009-01-26 18:50 x
■きとちみさん
 良いのですよ?「アーティスト」っちゅーか、「芸人」って言っても。
 色々なところで割とあきらめの良い39歳ですw
■どんさん
 そうですか、そうですか^^
 随分抱え込んだ荷物が多いようですねぇ(ノ∀`*)ペチッ
 ま、生きてりゃしょうがないよねぇ;;
 ひとまず「よ!恋多き女!」と喝采を送らせて頂きます^^;
■saoさん
 ( ゚∀゚)・∵,ブッ!!
 いやぁ、現状で一番僕がびびってるのは、saoさんのコメントかも知れません^^;
 コワイヨー(´Д`)
Commented by アストラッド at 2009-01-28 00:45 x
過去は誰にも消せない。
美しい思い出として終わらせるか、わだかまりを残したままに記憶の隅に保存しておくか…

三年前のきゅびさんは後者を選んだけど、今回は逃げなかったのね(* ̄ー ̄)


彼女の言葉に泣けました。

素敵な人ですね。

でも奥さまは、かけがえのない、現在のきゅびさんの超強力サポーター!!。

大切にしてあげて下さいねぇ(*´∇`*)
Commented by ふた at 2009-01-28 11:00 x
ひっくるめて”きゅび”でしょ
Commented by hagumi at 2009-01-28 21:25 x
2006年の記事に自分がコメントいれてるのを改めて見て、お友達になってもらってもう
3年もたつんだわって関係ない事考えちゃいました^^;

全公開しなきゃいいのに・・・って、これふれちゃいかんとこ?!
Commented by makayo at 2009-01-29 13:56 x
なんか じ~~んときちゃったナ。

やっぱ きゅびくんはカッコイイよ

いい話しだった。 ありがとう*^^
Commented by きゅび at 2009-01-31 13:47 x
■アストラッドさん
 「超強力サポーター」。うん、まさにその通りですね。
 一緒にいて散々迷惑ばっかり書けているにもかかわらず、嫁様からはいつも
 元気と笑いを頂いております^^;;
■ふたさん
 うん。今度、飲みたいね。
 オネーチャンの店は外して。
■hagumiさん
 男は黙って全公開なのです!
 ・・・と、申しますか「友達公開」にすりゃよかったのか゛(6 ̄  ̄)ポリポリ
 でもやはり、男は黙って全公開です!(*^-^)ニコ
■makayoさん
 「ありがとう」ですかΣ( ̄ε ̄;|||・・・
 こんな己を晒した記事に「ありがとう」とか言われちゃうと、
 逆に申し訳ない気持ちで一杯になります^^;;;
 
Commented by 大阪 ケン at 2009-02-05 11:28 x
奥方さまや ご一族さまの 心の深さと優しさが 貴方を支えているのですから
何を書いても 大丈夫! 今更「友達公開」などをするなら そっちが問題!

人に出会うと 素敵な人ほど 深い引き出しや 出会いを持っているように見受けます。そして いつも思うのは いい思い出だけや 大好きな人達だけで 人は 作られはしない。だから どんなに辛い思い出の相手も 最後は受け入れてしまうのかな。
Commented by ぷりん at 2009-02-05 22:45 x
途中までは「オイオイ、ホントの話かい?嫁さん見てんでしょ?」って思って
要らぬ心配しながら読んじゃったけど…

>その晩、僕は夢を見た。

のくだり、なんだかんだ言っても結局
「俺が愛してるのはオマエ達だ!」って言ってて…告白のようなもんじゃん(^^)

深いね、きゅびさん!!
Commented by きゅび at 2009-02-07 00:32 x
■大阪ケンさん
 大阪ケンさんの意見に、とっても同感です!
 だから、大阪ケンさんはとっても魅力的な人柄なんですね!うんうん。
 と、コメントを読みながらヒジョーに深く納得している次第です^^;;
■ぷりんさん
 ううむ。深いような、そんな事全くないような・・・。
 なんだかですね、僕の人生五里霧中って感じなワケですよ。はい(ノД`)シクシク
 ともかく、家族に対する愛情は変わりありませんけどね^^v
by hinemosunorari | 2009-01-26 01:46 | 日々のよしなしごと | Comments(15)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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