MAMA ALWAYS TOLD ME(2)

「ねぇ、きゅび。なんでママはきゅびと手をつないでるか分かる?」

そう言って、もうすぐ5歳になる僕の顔を、母は突然真剣にのぞき込んだ。
ツツジが陽に輝いて、鮮やかに咲く公園の遊歩道。
僕等二人はつないだ手をぶんぶん振り回しながら、仲良く散歩していた。
母がビア樽みたいになるのは、これより15年も後の話だし、
僕は僕でハードボイルドのハの字も知らない、純真無垢な可愛い天使だった。

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幼少の頃の僕の記憶に、父親の姿はほとんどない。
記憶と言えば、近所の友だちと遊んだりしたこと。
母の経営する店のカウンターの端っこで、夜食のカレーライスを食べたりしたこと。
そして休日の母との記憶ばかりである。

理由がある。
僕には二人の父親がいる。
勿論、実父と養父と言う意味である。
まぁ、良くある話だ。
僕はどちらの父にも感謝こそすれ、まったく恨んじゃいない。本当に。

でも、責任感の強い母は違った。
正確に言えば、「責任感と思いこみの激しく強い母は違った。」と書くべきだろう。
「父親のいない事で、この子に負い目を持たせちゃいけない」
きっとそう自分で固く決意したのだと思う。

おかげで僕は4歳にして、水泳・絵画・ピアノ・習字・バレエの各教室に
通わされる羽目になり、当時の日本で、多忙さでは一躍トップクラスの幼児になった。
(周知の通り、何一つモノになっちゃいないのが残念だが。)

また、ある時の父母会でのこと。
当時母は中野区でバーやらスナックやらを3店舗経営していたのだが、
それを「たかが水商売の女のくせに。」と揶揄する声を聞いてしまった。
陰口などは、元々反吐が出るほど大嫌いな性分である。

母はその場で烈火の如く怒った。
しかも、キレにキレまくっただけでは収まらず、
僕を連れて美容院に駆け込み、「あたし達を最新のヘアスタイルにしてちょうだい!」
とオーダーした。

翌朝、幼稚園の送迎バスの待ち合わせ場所には、最新アフロヘアーでバリッとキメた母子が
「どうだい、可愛いだろ?お前らにゃぁ出来るめぇがな。」
と他の母子を圧倒して凄んでいたという話である。
そんなちょっと違った愛情の表し方は、正直なところ息子にとってはやや苦痛だった。

だけど、忘れられないことがある。
どうしても、忘れられないことがある。
夕方から明け方まで店を切り盛りし、夜が明ける頃どんなにくたびれ果てて帰ってきても、
母は毎日必ず「たたいま、きゅび。独りにさせてゴメンね。」と言って、
眠っている僕を抱きしめてくれた。
夢うつつの中で感じるその温もりがあったから、
僕は毎日訪れる独りきりの夜も我慢出来たのだと思う。

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「どうして手をつなぐのかって?
 うーん、僕が転ばないようにかな?うーん、やっぱりよく分からないや。」
ちょっとはものごころがついていたのか、おおよその答えが分かっていながら
照れくさくて口に出来ずに、僕は分からない振りをしたと思う。
そんなささやかな反抗を見透かしたように、母は小さく笑ってこう言った。

「あのね、きゅびを離したくないから、こうして手をつないでるんだよ。
 世界で一番お前が大事だよって気持ちがね、ちゃんときゅびに伝わるようにね、
 こうしてぎゅっと手をつないでるんだよ。」

僕は、本当は嬉しかったのだけれど、やっぱり照れてしまって何も言えず、
つないだ手を強く握りしめながら、母の手に自分のアフロヘアーを二度三度
ゴシゴシとなすりつけた。

僕に足りないものなど、本当に何一つなかった。
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Commented by 大阪 ケン at 2007-12-04 08:40 x
今まで拝読したどの記事よりも 胸が締め付けられました。コメントが書けない位・・
お母様のお気持ち・お姿・・見えてきます。
Commented by あんこ at 2007-12-04 08:58 x
いい親子の絆だねぇ~~
アフロでつながれた絆。。。。。

うちは、何でつないでるんだろ。。。。。。
Commented by ふた at 2007-12-04 12:52 x
父親の記憶より、母親の記憶。自分にも降りかかりそうな事だね。
アフロ最高! 元スモール・アフロより
Commented by きゅび at 2007-12-04 22:58 x
■大阪ケンさん
 大阪さんにそう言われちゃうと、照れくさいですよ^^;
■あんこさん
 アフロにしたのは、後にも先にもこの一度きりです^^;本来ド直毛ですから!
■ふたさん
 ( ̄ロ ̄;)さすがによく分かってらっしゃる。気をつけねば!
 ふたさんの見事なアフロ姿は我が家のアルバムにきっちり残ってますよ^^v
Commented by ari at 2007-12-04 23:40 x
全て読み終えてから感想を述べようと思っていたのですが、少しだけ。

私の場合、最初に人と触れ合った記憶は「手を繋ぐこと」でした。
もちろん、赤ん坊の頃の記憶なんて私は覚えてないからですが・・w

「手を繋ぐ」って、私は素晴らしいコミュニケーションのひとつだと思っております。

何も言わなくても、何か通じるものが手のひらから感じられるんだなと。

きゅびさんの母上は最大級の愛情をきゅびさんに注がれていたんだと思います。
Commented by でこ at 2007-12-05 20:00 x
今度の日記はいつだ?
Commented by makayo at 2007-12-05 22:53 x
ん~ そうだったんだ~ 
じーんときてしまったョ。 アフロな親子に泣かされちまった~い*^^

ステキなお母様ね!
Commented by どん at 2007-12-05 23:38 x
最終章まで待ちます^^
Commented by きゅび at 2007-12-05 23:55 x
■ariさん
 忙しくてどんなことを書いたか自分で忘れてしまったので、今読み直してみたら・・・
 不覚にも自分に泣かされてしまいました。底なしのアホたれみたいな気分です。
 ・・・ともかく、素敵なコメントを本当にありがとうございます。
■でこさん
 今日だ!書いたぞー!一足違いでした(o_ _)o ドタッ
■makayoさん
 アフロな親子の話、いい話だよねー。
 さっき読み返したら、自分のことなのに目頭が熱くなったぞw
 なんだこりゃ。
■どんさん
 ( ̄ロ ̄;)言われて気がついた!
 現状じゃどれが最後かワカランじゃないか!
 ひとまず、おしまいなんですけど( - ""-)
Commented by どん at 2007-12-10 00:13 x
え?
想定外の予想外だわ。

不意をつかれたようだ。

でも(3)があるじゃんかー
安心。

温めます・・・
Commented by きゅび at 2007-12-15 08:40 x
■再び、どんさん
( ̄ロ ̄;)うぉ!今気がついたよー><;;
遅レス、大変申し訳ございません!
言いたいことが多すぎて、続編はタイトルを変えて書く予定ですよ^^;
by hinemosunorari | 2007-12-04 03:45 | 日々のよしなしごと | Comments(11)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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