たった一度だけ、望んだ夢が見られるとしたら。③

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幾つになっても、何回か経験を重ねても、
人の死というものは、自分の中に受け入れるのに四苦八苦する。
どうやってもごまかせない現実は、呑み込むに際して大きな苦痛を伴う。

ツアーの初演を間近に控え、慌ただしい毎日を送っていた3月のある晩、
祖父の訃報が飛び込んできた。
すぐにでも愛媛へ飛んでいきたかったけれど、、、
大好きだったでっかい手に触れる最後の機会だったけれど、、、
数日後に迫った公演は、照明家の僕の「目」が無ければ成立しない。

自分にしか出来ない、代役の利かない仕事をしているというのは、
僕自身の中でささやかな誇りでもあった。
僕を買ってくれている関係者の期待にも応えたかった。
けれども、やはり最期に祖父に会いたい。
その想いはなかなか斬り捨てられなかった。

やらなければならない事、クリアしなければならない課題は
まだまだ数多く残っていた。
どうにもこうにもならない焦燥の中で、殆ど眠れない夜が続いた。

そんなある晩に、不甲斐ない孫を見るに見かねたのか、僕は祖父の声を聞いた。
聞き覚えのある懐かしく愛しい声を、確かに聞いた。

「久しぶりじゃな、きゅび?
 どうした、冴えない顔して?」
「おじいちゃん。俺・・・、ごめんね。
 最期くらい会いに行きたかったよ。
 孝行なんか全然出来なかったけど、きちんと自分の言葉でお別れしたかったよ。
 おじいちゃんの手、大人になってからは握ったこと無かったけど、
 お別れの時に”ありがとう”って握手したかったよ。
 だけど、ごめんなさい。
 俺、今は東京を離れられないよ。」
「なんちゃないて。きゅび。
 そんなこと気にしたらいけんよ。
 男なんじゃろ。父親なんじゃろ。
 仕事頑張らにゃ。」
「おじいちゃん・・・。」
「じいちゃんはな、きゅびがちっちゃい頃から面倒見てるけん、
 心配せんでもお前がどんな子かは、よーくわかっちょらい。
 さ、さ、目が覚めたら家族くわせる為に、しゃきっと働くんよ。
 じいちゃんは、愛媛の田舎でずっと待っちょるけん。
 きゅびが、嫁さんと子供を連れて遊びに来るのを、
 愛媛の川や山や空に囲まれて待っちょるけん。
 夏になって、田んぼが綺麗に青くなった頃、昔みたいにまた遊びに来たらええ。」
 
****************************************************

祖父の声を聞いた夜からは、胸の中の悩みも消えて、
僕本来の仕事に集中することが出来て、
ツアーの初日も大成功のうちに幕を下ろした。
そして先日、そのツアーで僕は愛媛県に行った。


                               つづく。
Commented by ☆ふーが at 2006-07-09 15:13 x
読みながら、涙がボロボロこぼれました・・・・
Commented by きゅび at 2006-07-09 19:52 x
早速のコメント、ありがとうございます。
かけがえの無い人の、かけがえの無い思い出。
何ヶ月もたちましたが、ようやく人に話せるほどに自分で受け止められるようになりました。
Commented by もも。 at 2006-07-10 03:18 x
お祖父さまの・・・ほんとにお祖父さまの声(言葉)だったのでしょうね。
(♋д♋)の眼になっちゃってます、あたしったら・・・
Commented by ゆちと at 2006-07-10 11:43 x
幾日たっても祖父母への思いは特別なものがありますよね。
・・・私は2度(二人)死に際に立ち会いました。すぐに冷たくなるわけではない手を握り、細くて壊れそうな胸に顔をつけ、嫌だ嘘だと泣くばかり。ありがとう、と言うには時間がかかりました。(続きもののお話の途中ですいません、思い出しちゃったもんで・・・)
Commented by きゅび at 2006-07-11 06:45 x
■もも。さん
 何はなくとも、お誕生日おめでとうございます。
 そんなタイミングなのに、湿っぽいお話でゴメンナサイね^^;
■ゆちとさん
 途中でも嬉しいですよ、コメントを頂けるのは^^
 順番通りに行けば、最初に体験する近親者との別れですものね。
 僕もそうでしたが、受け止めるのには相当時間が必要でした。
Commented by アルピニア at 2006-07-12 00:33 x
大好きな人の死ってのは、ホント辛いですよね。
私も何度か経験しているので、私なりに理解はしているつもりです。
今でも、思い出すと涙が出てきますもん。。

でも、夢にまで出てきてくれて、そう言ってくれたお祖父さん、格好いいじゃないですか!
さすがきゅびさんのお祖父さんですね^^
Commented by 大阪 ケン at 2006-07-12 11:49 x
きゅびさん・・辛かったでしょうね・・でも耳元のささやきは 確実にお祖父さんの心だったと思います。
Commented by きゅび at 2006-07-12 11:49 x
■アルピニアさん
 懐が深いですねー、アルピニアさんは。癒されるコメントを有り難うございます^^
 誰しも経験するワケなんですけれど、対処の方法は様々ですものね^^
Commented by きゅび at 2006-07-12 11:53 x
■大阪ケンさん
 コメントのお返事を書いていたら、新たにコメントが入っておりました。
 有り難うございます。
 辛いのはつらいのですが、僕は往生際が悪いのだと思います^^;
 ぐずぐず言っていたってしょうがないのにね^^;
Commented by アストラッド at 2006-07-12 18:50 x
目頭がじーんと熱くなってしまいました。
大切な人の死ほど、つらく受け入れがたいものですが、お葬式などの儀式で手順を踏んでいくことで昇華される思いもありますね。
すぐにでも飛んで行きたい気持ちだったでしょう・・・。
もう数ヶ月たって・・とのことですが、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
Commented by もも。 at 2006-07-13 00:23 x
wwww そんなお気遣いはご無用('I')ジッww  でも、アリガトウゴザイマス♡
Commented by きゅび at 2006-07-13 02:50 x
■アストラッドさん
 お心遣い、有り難うございます。
 僕自身はようやく自分の中で事実を受け入れられました。
 「まばたきの伝言」を読んだことも、一つの契機になった気がします。
 感謝!
■再びもも。さん
 どういたしまして^^v
by hinemosunorari | 2006-07-09 14:08 | 日々のよしなしごと | Comments(12)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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