つかまつったり、天下一!(第五夜)

さてさて。
俗に「火事と喧嘩は江戸の華」などと言ったりします。
実際のところ、火事も喧嘩も当時の江戸では頻発していましたし、
火事と喧嘩はとても密接な関係にありました。

喧嘩には必ず恨み晴らしの為の放火がついてまわったようですし、
火事場と言えば、当事者同士の責任をめぐる喧嘩から、
火消し達の間の仕事や手柄を取り合う喧嘩まで、本当に後を絶たなかったようです。

お七大火から遡ること24年前の1657年1月18日、
いわゆる「明暦の大火(振り袖火事)」と言われる大火災が江戸の町を襲いました。
徳川幕府が初めて震撼した、恐るべき大火でした。

本郷5丁目の本妙寺から出た火は、瞬く間に風に乗って南へと拡散しました。
まるまる2日間猛り狂った炎は、当時の江戸の60%以上を灰にしたとされていて、
実際にこの火事で焼失した江戸城天守閣は、以後二度と再建されることはありませんでした。

この明暦大火以降、幕府は本格的に火災と向き合います。
「荒れ狂う火」は簡単に「反乱」を連想させましたし、
何よりも世界一の大規模城郭都市である江戸には、木造家屋が密集していた為、
乾燥した北風の強い冬に、ひとたび火の手が上がってしまうと、
当時の火消し組織の手には負えず、ひたすら「破壊消防」により類焼をくい止めることしか
打つ手がなかったのが現実でした。

故に、幕府は「火」にまつわる法を、とても厳格なものにしています。
当時の戒律を後世に記している「元禄御法式」によると、

「一、 火をつける者の類、火罪。
    火付け道具を持ち候計、又は人に頼まれ火をつけ候類に死罪。流人。」

と、かなり厳しく断罪しています。
小火であろうが何だろうが、意図して火をつけたら容赦なく火あぶりだったようです。
そんなご時世の中、どうしてお七は放火などしたのでしょうか?
実際に「天和笑委集」に基づくお七の記述をたどってみましょう。

*************************************

天和二年(1682年)。
八百屋を営む市左右衛門の娘、お七が17歳の頃のこと。
火事により焼け出された彼女と家族は、避難した先の正仙院という寺に
間借りしてしばらく暮らすことになる。
この寺には生田庄之介という、お七と同じ年の美少年の小姓がいた。

やがてお七と庄之介は惹かれ合い、間もなくわりない間柄になる。
ところが深い仲になったのも束の間、避難から一月後にはお七の新居が完成してしまう。
そう。二人の仲は僅か半月で引き裂かれてしまったのだ。

会えぬ二人の思いは、ただただ募るばかり。
書状のやりとりも頻繁にした。
けれども庄之介は住職の寵愛を受ける身。自由等ききはしない。

そんな会えぬ苦しさから、いつしかお七の胸中には
「もう一度、火事が起こりさえすれば、また庄之介に会える。ともに暮らせる。」
という狂気が黒く渦巻いていった。

そして、お七の命運を決定づけた12月28日。
庄之介への盲目的な情念にとりつかれた彼女は、
自宅近くの商店の軒板の隙間に、綿くずとわらを詰め、
とうとう炭火で火を放ってしまったのだった。

                                           つづく
Commented by 大阪 ケン at 2006-03-13 12:06 x
江戸時代の火事の恐ろしさは並大抵では 無かったでしょうね。
放火は 今の時代も恐ろしい。
Commented by アルピニア at 2006-03-13 19:22 x
いつの時代でもそうだけど、人間の「情念」ってのは怖いですね。。。
さぁ続きにいかなくては!
Commented by きゅび at 2006-03-13 21:52 x
■osakakenさん
 全部木造ですからねー。鉄筋作りが遭ったらびっくりですけど^^;
■アルピニアさん
 ふむふむ。たしかに、盲目になってしまいますからねー。
 お酒と同じくらい恐い。とかいってみます。
Commented by はむねこ at 2006-03-14 19:41 x
時代劇やらで『火付盗賊改方(ひつけ・とうぞく・あらためかた)』なんてのもよく聞きますしね。やはり重要だったのでしょうねぇ・・・(* ̄ 公 ̄)・・・
Commented by きゅび at 2006-03-14 22:00 x
■はむねこさん
 実は相当時代劇マニアなのでしょうか?
 火付盗賊改方なんて、早々知名度のある言葉ではないと思います。
 それとも、滋賀県では義務教育で時代劇観賞ってのがあったとか?
by hinemosunorari | 2006-03-12 23:46 | 日々のよしなしごと | Comments(5)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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