続・ゴルフのススメ(二)

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「どうしても、どうしても、歌が歌いたかった。
 若かったし、失うものは何も無いと思っていたんだね。
 歯ブラシと着替えが詰まったカバンと、信じた夢を必死に抱いて
 他の大切なものは全部、故郷の下関に置き去りにしてきてしまった。
 本当に、どうしても歌が歌いたかったんだ。」

そう語る彼の上京生活は、本人が覚悟していたものよりも数段厳しいものだった。
ガードマンや古紙回収のアルバイトをしながら、
歌わせてくれる店を探して、新宿のネオン街を隅から隅まで歩き尽くす生活は、
それでもその日を食いしのぐのがやっとだった。

そんな苦しい生活を何年も続けても、歌を志す彼の心は決して折れなかった。
クラブ・スナック・キャバレー・居酒屋の店先。
歌わせてもらえるのなら、場所は選ばなかった。
酔った客に水を掛けられたのも、タチの悪い客ともめて店に塩をまかれたのも、
一度や二度ではない。

それでもただの一人でも、自分の歌を聞いてくれる人がいるのなら、
自分の歌に心を開いてくれる人がいるのなら、そのただ一人のためだけに全身全霊で歌った。
たとえ声が枯れても、魂を振り絞って歌い続けた。
それはひとえに、家族も友人も、あれほど愛した野球さえも故郷に置き去りにして、
歌の世界に身を投じた彼の決意であり、
歌に対する揺ぎ無い愛の証でもあった。

そんな彼の真っ直ぐな歌がやがて評判になり、
レコードデビューのチャンスをつかんだのは、上京から6年後の事。
芸名を伊達春樹と言った。
しかし、デビューはしたものの、やはり楽曲は全然売れず、
生活自体は下積み時代とほとんど変わらなかった。

ある日彼は、靴底をすり減らして歩き尽くした新宿の街で、ふと思う。
「この人にあって、俺には無い何かがある。
 それが分からないようじゃ、俺はきっと一生このまま終わってしまう。」
彼が見つめる先には、新宿コマ劇場の大看板があった。
新宿コマ劇場では、当時の男性演歌歌手で全盛を極めていた北島三郎が、
一ヶ月の座長公演をしている最中だった。

彼は、かよった。
楽屋口で何度も何度もはねつけられながらも、一心に通い詰めて、ついには北島に
「よし、譲二。お前の根性、しっかりと見させてもらった。
 今日から俺を親父だと思って、しっかりついて来い。」
と言わせるに至った。

北島三郎自身、北海道での貧しい暮らしから体一つで上京し、
渋谷のネオン街からスターダムにのし上がった、叩き上げの苦労人生だった。
だから、毎日必死にコマの楽屋口に懇願しに来る若者を、
他人と片付けてしまう事は出来なかった。

彼の一途な情熱が導いた、北島三郎との運命の邂逅。
改めて北島門下で歌手修行を積みなおし、これまでの芸名を捨て
故郷を飛び出した初心に戻り、本名の山本譲二で再デビューを果たした。

そして、山本譲二上京から10年。
楽曲「みちのくひとり旅」との出会い。
この曲を山本譲二にあつらえた北島はこう叱咤激励した。

「譲二、これが勝負の曲だ。
 この曲でお前の名前が世に出なかったときは、最後だ。
 だから、どこでもいい。誰でもいい。
 この曲を、お前の歌を、聞いてくれる人が一人でもいるのなら、
 そこに飛び込んでいって、歌って来い。」

北島の言葉は、彼が10年前に新宿の街で心に決めた決意を鮮明に蘇らせた。
芸能界に神様は存在しない。
チャンスがめぐってきた時に、それを活かせるだけの準備が出来ていなければ
それは他人のもとへ転がっていってしまう。

けれども、彼は信じた。
苦労にまみれても積み続けた努力の日々と、
「どうしても、どうしても、歌が歌いたかった。」
そう切実に願った、歌に対する真摯な愛情が彼を支えた。

そして、突っ走り続けて1年後。
「みちのくひとり旅」は当時の男性演歌界では、異例とも言える100万枚を超えるビッグヒットを記録し、
1981年の主要音楽賞を総なめにした。

「どうしても、どうしても、歌が歌いたかった。」
何もかも置き去りにして、下関を飛び出した山本譲二が積み上げた
11年分の身を削り取るほどの苦労の頂点に、はじめて鮮やかな大輪の花が咲いた。


                                             つづく





」」」」」当時のコメント」」」」」

スシファイ ゴルフはどうなった?山本譲二絡みの仕事してたっけ? ()
2005/05/08 17:20

アルピニア ほーーー! 山本譲二ってそんなに苦労してたんだ。。。 これから見る目が変わるかもしれないですね^^ で、↑の方と同じですが、ゴルフはどうなったんでしょう??
2005/05/08 19:59

はむねこさん 普通の演歌歌手なんだと思ってました・・・(* ̄ 公 ̄)・・・
己の信じる道を突き進むのが一番ですよね^^たとえうまく行かなくてもそれが♪
2005/05/08 20:25

osakaken ゴルフも楽しくできて・・私たちは いい話も伺えて・・良かったです。
2005/05/08 20:56

戌年セブン そんなんがあったんですね!続きが気になります。。。
2005/05/08 23:03

アストラッド 函館に住んでいたもので、北島サブちゃんの話しは良く耳にしました
山本譲二の話しを聞いたのは初めてです とても苦労したんですねぇ・・
2005/05/09 01:41

きゅび
■スシファイさん
 せっかちだなぁ^^;
 譲二さんの仕事はしてないよ^^初対面、初対面。
■アルピニアさん
 でしょ?でしょ? さ、続きをどうぞ!
■はむねこさん
 そうですとも。自分で決めて失敗したなら、まだ悔やみきれますものね^^
■osakakenさん
 (二)はとんだ苦労話になってしまいましたが、全ては(三)のためです。
 この話のおかげで、僕は譲二さんに好感を持つ事が出来ました。
■戌年セブンさん
 お帰りなさい!さぁ、続きがあります。レッツゴー!
■アストラッドさん
 そうですか。サブちゃんの話はたまにテレビでも取り上げてたりしますからねぇ^^

2005/05/09 01:57
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by hinemosunorari | 2005-05-08 16:50 | 日々のよしなしごと | Comments(0)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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