この日の記念に書こう。(六)

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「きゅびさん、お待たせしました。無事に元気なお子さんが生まれましたよー!」
思わず立ち上がった。
知らぬ間に控え室には何組かの家族が入ってきていて、
その方たちの間から「おおっ」とか「わぁ」とか、歓声が湧いた。

あわてて手術室の通路に駆け出すと、ちょうど自動扉の向こうから新生児を載せたワゴンが出てきた。
ワゴンを押していた看護士さんが
「きゅびさん、おめでとうございます。元気な男の子ですよ。
 心配していたのですけれど、取り上げたらすぐに産声を上げましたよ。」
と、教えてくれた。

ワゴンには赤ん坊が一人。
嫁と僕の子供。

真っ白いタオルにくるまれた中で、むにゃむにゃと小さくなっていた。
看護士さんがワゴンのフードの顔の部分だけを開けてくれた。
何だか声をかけただけでぶっ壊れてしまいそうなので、小声で話しかけてみる。
「心配したぞ。大丈夫か?お前。」

反応などないと思っていた。
けれども、確かに子供は僕の声を聞き、
声の主を探して眩しそうに目を開けてこちらを見ようとした。
「おいっ!わかるのか!俺がわかるのか!!」
つい、大声になってしまった。
あわてた看護士さんが、フードを少し閉めながら
「お腹の中で10ヶ月聞いていた声ですから、わかりますよ。」
と苦笑しながらも教えてくれた。

「バカヤロウ。俺は月の半分は東京にいねぇから、5ヶ月だ。
 それなのにしっかりと分かるコイツは、天才に違ぇねえ!」
と言いたいのをぐっとこらえて、冷静に
「よ、嫁はだだ大丈夫ですか?」
と尋ねた。
そもそも控え室で聞いた看護士さんの声が、おめでたムード満点のトーンだったから
大丈夫なのはミエミエだった。
案の定、
「はい、奥様もご無事ですよ。安心してください。
 今は切り口の縫合をやってますから、後15分位したら出てきます。
 もう少しの間、待っていてあげてくださいね。」
そういって我が子を新生児室へと運んでいった。

最高の気分だった。
その最高の気分が覚めやらぬ間に、手術を担当してくださった先生が自動扉から出てきた。
僕が礼を言うよりも先に先生は
「きゅびさん、お疲れ様でした。
 お子さんも、奥様も、とてもいい状態です。おめでとうございます。」
そうおっしゃった。そして、
「お子さんなのですが、母体の中で回旋異常を起こしていました。
 つまり、前後逆を向いていたのですね。そこへもって羊水が無くなってきたものですから
 心音が聞き取りにくくなったようです。ですから健康上は何の問題もありません。
 赤ちゃん自体はとても元気で、状態は良好ですよ。」
と、教えてくださった。
「なぁんだ、要するに嫁にも息子にも落ち度はなくて、あんたらの診断がへぼかったんだ。
 はっはっはっ。」
と言いそうになるのを、ぐっとこらえながら
「先生、どうもありがとうございました。」
と言い、深く頭を下げた。
恐ろしく高い医療費を巻き上げたうえに、「ありがとう」と感謝されるお医者様はスゴイと思った。
また、同時に喉元を過ぎてしまえば御恩も何もかも忘れてしまう自分自身に、ほとほと嫌気が差した。

そんなつまらないことを差っ引いても、最高の気分だ。

そして、その感動を味わっている最中、ストレッチャーに載せられ嫁がようやく自動扉から出てきた。
いつだって主役は必ず最後のいい所で出てくる。
すべての緊張から解き放たれて、まるでカーテンコールみたいだった。
酸素マスクをしている嫁に走りよった。
「俺たちの赤ちゃん、さっき見たぞ!よく頑張った!
 すごいよ!やったよ!でかしたな!偉いよ、ホント!」
何が言いたいのかは、言っている当の本人さえ分からないけど
最高の気分を嫁にありったけの勢いで伝えた。

嫁は疲れ切ってはいたけど、穏やかな笑顔を見せて僕に答えてくれた。
嫁も無事だ。
やばかった。人前だけど泣きそうだった。
「術後の処置があるから、後でお呼びしますね」 
と看護士さんが言って、嫁をスタスタと個室に入れなかったら、
安堵と喜びと感謝と感動と、あとその他諸々のぐしゃぐしゃで、本当に泣いてたと思う。

一人残された手術室前の廊下からは駒沢公園の競技場やシンボルの塔が一望できて、
そのはるか先には丹沢の山々や富士山が見えた。

2005年2月15日。時刻は午前10時を少し回っていた。
思えば36年前、僕の父も言葉では到底言い尽くせない、この同じ気持ちを感じたはずだ。
そしていつかは、大きな大きな時間の輪がぐるりと一回りする頃、
今度は僕の子供が、この大きな感謝の気持ちに気がつくはずだ。
しっかり育てよう。
その時まで、しっかり育てよう。
時が来たら、求めるだけじゃない愛の形が、確かにこの世にあることを心から感謝できるように。



・・・・・・・さて、長い話には例え実話であってもたいていオチがある。
これも例外ではない。

病院の窓から遠く富士山を望みながら、僕が感動的に誓いを立てている頃、
なんにも分かっていない名犬ジルは、ひとりきゅび家の居間にいた。
彼女は孤独だった。
ここのところ散歩がとてもおざなりなのも不満だったし、
何よりも朝食を忘れられているのが不満だった。

不満を募らせた女は、恐ろしい。
そして彼女は居間のカーペットの中央で案の定、例によって例のごとく
「てめーら、ふざけんじゃねー!!」
と叫びながら、復讐のンコをひねり出したのだった。
そんな彼女なりの精一杯の祝福に気がつき、泣きながらカーペットを風呂場で洗う羽目になったのは、
それより10時間も後の事だった。



                                                 おわり


」」」」」当時のコメント」」」」」

vmayo さすがきゅびさん。。どんな感動話にもオチがありますねw
きゅびさんのお母様とお父様は本当に素敵な方だな~と思いました!!
その血を受け継いでいるきゅびさん、赤ちゃん、そしてその血に引き寄せられた奥様は、とっても素敵だな~と思いました^^私も早く幸せになりたいな~と思わせられました!!ありがとうございます☆ジルちゃんの相手もしてあげてくださいねw
2005/03/04 01:09

deedee0727 無事でよかったですよぉ~~(*^^*) フフ
これからもたくさんいろんなお話がでてくるんでしょうd(´▽`*) ネッ☆
楽しみにしてますねぇ~~《《《《♪♪(*´▽`*)ノ゛うふふ~
2005/03/04 03:05

戌年セブン 本当にオメデトウございます^^ンコもイイ思い出になりますねw
2005/03/04 04:52

aburaking 生命の誕生を垣間見たんだよなぁ・・・。いい経験をしたと思われる。
我が子の可愛さの故にいじけそうな奴の顔が目に浮かぶ( ´_ゝ`)
どちらも大事にしてね
2005/03/04 09:22

bluesky02 犬は思いっきりヤキモチ妬くからねぇ。
2005/03/04 11:58

アストラッド 。・ ゚・。* 。 +゚。・.。* ゚ + 。・゚・(ノД`) 感動!!子供は存在自体が愛ですよ
よかったね、きゅびさん!!ジルの可愛いヤキモチが( ´艸`)ムププ
2005/03/04 23:06

ryoma2005 やはり、笑いあり、感動ありのストーリー。次回作も期待しています。
2005/03/05 03:34

きゅび
■vmayoさん
 全部読んでいただいている上に、素敵なコメントをいただいて、
 本当にどうもありがとう^^
 ジルともしっかり遊んでいます^^任せてください!
■deedee0727さん
 ありがとうございます^^
 ご期待に副えるよう、地味に精進いたします。猫ちゃんにも宜しく^^v
■戌年セブンさん
 ありがとうございます^^
 ホームページの方でIDの由来を知りました。ぷぷぷ^^
■aburakingさん
 あはは^^!kingさんらしいコメント、どうもありがとうございます。
■bluesky02さん
 現状ですでに、ものすごーく甘ったれです><;
■アストラッドさん
 長々と読んでいただいて、ありがとうございます^^
 ご近所でしたらこの可愛いやきもちの結晶を、
 ラップで包んでお届けしたいくらいです。
■ryoma2005さん
 どうもありがとうございます(*_ _)人
 今回はryomaさんやryomaさんのブログを通して知り合った方々から
 とても温かいコメントをたくさん頂き、大いにはげみになりました。
 今後も、是非宜しくお願いします^^v
2005/03/05 12:57

吉田主任 ジル・・・・期待を裏切りませんねw
2005/03/05 14:32

★アクアマリン ほんとに母子共に元気でよかったね^^ 新しく家族が増えて ジルちゃんは最近どうなんでしょ!?^^
2005/03/05 15:20

☆やすたん★ 子供ができても、ジルもかわいがってあげてね♪
2005/03/05 16:55

紅の流離人 赤ちゃん^^良い顔してるね~~~こりゃ、頑固もんになってきゅびパパといつか衝突するね~~そのときまで体力落とさないようにしっかり鍛えとかないかんよ~~~
男らしい顔してるよ~~ヽ(-゚ヽ)トッ!! (ノ゚-゚)ノテモ!!.。゚+.(゚ー゚)ノ。+.゚ イイ!!
2005/03/05 23:56

らむりー☆
。+。゚.:。゚::。+゚。゚(゚´Д`゚)゚。゚+。::゚。:.゚。+。
本当におめでとぉございます!!!!私もきゅびさんみたいな素敵な旦那を見つけて、幸せになりますぅぅぅぅ。・゚・(*ノД`*)・゚・。
2005/03/06 00:52

osakaken 人が生まれ来ることは凄い事ですよねえ・・しかも太古の昔から同じなんだから・・。
きっとどんな時代も親が子を思う気持ちの根底は科学の進歩とは関係なく・・同じなんだろうと私は思います・・。
2005/03/06 03:16

ぴの彦 最後はやっぱりジルですかwしかしお子さまかわゆい!うちのお子と同じくらいかわいい!ww
2005/03/06 03:21

きゅび
■吉田主任さん
 大したやつです。小さな体で大きな態度。
■アクアマリンさん
 やきもちを妬くと言うよりは、甘ったれ度がパワーアップしています。
■やすたんさん
 了解!毎日散歩に行ってるよぉ~♪
■紅の瑠璃人
 あちゃー、衝突かぁ!望むところだっ、かかってきなさい!!
 って、いえるかなぁ?
■らむりーさん
 有り難うございます!
 きゅびが素敵かどうかはさておき、素敵な男性って結構いるモンですよ^^
 がんばって!
■osakakenさん
 達観していらっしゃいますね^^同感でございます。
 そうでなくっちゃ、人間とは言えませんものね^^
■ぴの彦さん
 うはは^^ありがとうございます。
 あー、そんな嬉しいコメントも、今月までかと思うとさみしーです><
2005/03/06 15:04

初“〆(^∇゜*)カキコ♪です。長男誕生おめでとうございます。
。o.゚。カワ(´・Å・。`人)イイ。o.゚。 世界一の親ばかになるんだよo(*^▽^*)oあはっ♪ ()
2005/03/06 15:50

きゅび ■知夏さん
 早速の来訪、どうもありがとう^^!ブログ、はじめると楽しいよぉ!
2005/03/06 23:12

はむねこさん うひひ♪きゅびサンにとっては、長い物語かもしれませんが・・・
読む方には、のめり込んでしまってすぐでしたよぉ(〃∀〃)♪
しかし、幸せ一杯でよかったですね^^改めておめでとうございます♪
これから、新たな物語が始まるのですねぇ・・・ジルさんは、どんな先輩風を吹かせるのでしょうか(〃∀〃)♪
2005/03/07 17:56

きゅび ■はむねこさん
 どうもありがとう^^!
 ジルの先輩風も今後ブログネタになることと思います^^
 是非とも、お付き合いくださいませ^^
 そうそう、おかえりなさい^^v
2005/03/08 14:43

ririka34 本当におめでとうございます!赤ちゃんかわいい~~~ヽ(=´▽`=)ノ
誕生・・素晴らしいです・・・・初対面の時の喜び・・・こうして記事に
残すこと・・・すごくいいですよね・・・お子さんが小学校くらいになって
これを読んだら:*:゜・☆  誕生は始まりです・・・・
きゅびさんこれから毎日が驚きの連続ですね・・・^^  ジルちゃんも
ちゃんとかまってあげながら・・w  子育てファイトですよ!
2005/03/10 15:05

きゅび はい^^頑張ります先輩!本と、色々教えてやってください^^
2005/03/11 13:02

mykok おめでとう^^最高の気分でしょう^^男の人は産む事出来ないから・・当たり前ですね。どんな感動なのか想像できないけど^^きゅびさんが申年って分かりました、私も申です。同い年って言いたいけどプー!(*≧m≦)=3ジルちゃん寂しいよねーー;でも犬って環境に慣れやすいですよね^^
2005/03/29 21:58

きゅび ありがとうございます^^
きゅび、実は酉年だったりします^^ま、どうでもいいことですけどね^^
でも、嫁の出産をまのあたりにして、つくづく女性ッてぇのはスゲエと思いました。
2005/03/31 09:20
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by hinemosunorari | 2005-03-04 01:01 | 日々のよしなしごと | Comments(0)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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