銀次のこと。(一)

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久しぶりに家でゆっくり眠れるというのに、
どういう風の吹き回しか無性に山が恋しくなって、昨夜は登山用の寝袋で寝た。
僕はどうも変人らしくて、年に何度かはそんなことをする。
さして意味は無い。

最初は一人だったのだけど、そのうち愛犬のジルに見つかってしまった。
先週ずっと留守にしていたせいか、ジルは恋しそうに窮屈な寝袋に入ってきた。
最初のうちは慣れぬ場所でじたばたともがいていたけど、
やがて僕の腕にあごを乗っけて、いつものようにでかいイビキをかいて眠りだした。
去年の今頃は、うるさくて馴染めなかったコイツのいびきも
最近ではすっかり子守唄に聞こえてしまうから、不思議なものだ。
そんなことを考えながら、反対の手でジルの撫でているうちに、僕も眠りに落ちた。

明け方、夢を見た。
ジルがいなくなってしまう夢だ。
耐え切れないほど切なくて、目が覚めた。
不安になって、「ジル?」と呼んでみる。
返事はなかったけどジルはちゃんと寝袋の中にいて、
ゆうべと同じ僕の右側で、いつもどおり難しい顔をしながら寝ていた。
とても安心した。
そして再び寝ようとしたとき、唐突に銀次のことを思い出した。

銀次とは昔大学生のときに飼った猫のことだ。
当時僕は、高校時代から付き合っていた女の子と別れてしまって、
ひどく落ち込んでいた。
バスケットやアルバイトの用事を無理やり作っては、忙しさで自分を欺いていたように思う。
だから、家に帰るとただ独りのだだっ広い空間が、まるで冬の海みたいに寂しくて
泣けちゃうくらいに夜が嫌いだった。

そんな訳でろくに眠れない夜が半月ほど続いたある冬の日、
ドアの近所から、か細い妙な声を聞いた。
不眠が続いたせいで、ついに幻聴が聞こえたのかと思ったが、そうではなかった。

よく耳を澄ますと何かの鳴き声だ。
玄関まで行き、恐る恐るドアを開けた僕の足元には、
産まれたばかりでまだ目も開いていない仔猫が、
ダンボールの小箱に入れられて置き去りにされていた。
明らかに捨て猫だった。

生まれて間もない命。
誰かしらの加護がなければ、生き延びることなど決してできない。
それを承知で過酷な冬の夜に、まるでゴミの如く仔猫を放り出すヤツは誰か。
見つけ出して、顔の形が変わるほどぶん殴ってやりたいと思ったが、
事態はそんなことをいっている場合ではなかった。

酷寒の中、一晩中親猫のぬくもりを求めて鳴き続けた仔猫の体力は、
とうに限界を迎えていた。
掌にすっぽりと収まってしまう仔猫の体は、
抱き上げてみると、ぞっとするほど冷たかった。

もともと僕は動物が好きだ。
けれども、きちんと世話をしたことなど一度もなかった。
こんな切迫した状況でどうしたらいいのか、さっぱり分からなかったが、
そのまま放っておいては、仔猫がすぐに死んでしまうことくらいは分かった。
事実、あわてて懐に入れて部屋に入る頃には、仔猫はもう声も上げられなくなっていて
その小さな身体はまるで石ころのように冷たく、硬くなっていた。

それから丸々二日間くらいは、文字通り不眠不休で仔猫の看病をした。
女の子に振られてしまった自分の境遇と、
心無い飼い主に見捨てられてしまった仔猫の境遇は、とても酷似しているように思えた。
だからこそ、なんとしても助けてあげたかった。
その小さな命に、見捨てられたら何もかも終わりっていうんじゃない事を、
僕自身が証明してもらいたかったのかも知れない。
必死で看病した。
温かいタオルで全身を拭ってあげながら、ずっと 「頑張れ!生きるんだぞ!」って話しかけ続けた。

甲斐あって、三日目になると仔猫は劇的に回復した。
それまでは全く水もミルクも飲めたかったのに、その夜はミルクを求めて自分から鳴いた。
飛び上がるほど嬉しかった。
消えかかっていた小さな生命は、
「死なせてはいけない。」という信念と「生きたい。」という信念によって、再び立ち返った。
そのことが、小さな奇跡をまのあたりにしたようで、本当に嬉しかった。



                                         つづく            



」」」」」当時のコメント」」」」」

ryoma2005 命の輝き。日頃、実はそんなに意識できない。きゅびさんは、いい照明組まれるのでしょね。ほろっとしました。
2005/02/11 01:53

はむねこさん 私の今日の記事に書けなかった事なのですが、今日も猫の亡骸があったのですね・・・きゅびさんの記事は逆に暖かいので、ちとうれしいです(〃∀〃)♪
2005/02/11 01:57

m⇔k σ(o・ω・o)アタイも動物は好きだから きっと同じ事したと思う。
で、銀次くんは??
2005/02/11 08:53

きゅび
■ryoma2005さん
 「照明を組む」という表現をなさる方は一般ではそういませんね^^
 キャリアがしのばれます^^v
■はむねこさん
 先ほど、その記事を見てきました。
 はむねこさんらしい、思いやりにあふれた記事で良かったです^^
■m⇔kさん
 はい。今からジルを散歩に連れて行って、その後に書きます。
 しばしお待ちを(_ _(-ω-;(_ _(-ω-; ペコペコ
2005/02/11 09:28

deedee0727 にゃんこ・・きゅびさんに見つけてもらえてよかったねぇ~~・・(●ToT●) シクシク 続き気になっちゃうよぉ~~(; ̄ー ̄A アセアセ・・・
2005/02/11 09:50

ぴの彦 銀ちゃん、きゅびさんに出会えてよかったねぇ(*´д`*)ポッ
それにしても、動物捨てる人間の気が知れません。
2005/02/11 13:33

うさうさごん ほんと、、、心無い人、、胸が痛みます。
つづき楽しみにしてまーすw
2005/02/11 14:22

スシファイ そういや居たねえ。猫。あのアパート時代だよなあ。 ()
2005/02/11 17:42

きゅび
■deedee0727さん
 実は、ジルの前に猫を飼っていたきゅびでした^^
 deedeeさんのところのニャンコと同じくらい可愛かったのですよ^^;
■ぴの彦さん
 そうです!思い出しただけでも怒りが沸点に近づきます!!
■うさうさごんさん
 少なくとも、動物を飼っている人のはずなのに、何で仔猫を捨てれるのでしょうね!
 怒り、心頭です。
■スシファイさん
 !!!! 
 覚えてるってか?!でも、そうだよ。そうそう。
 駒沢のフジマキんちのとこ!
 あー、そういやぁスシファイとトンタとミワなんかは、来てたもんな!
 なんか、うれしい!!(≧∀≦*)
2005/02/11 21:25

ryoma2005 そうですね。平気で、「照明ばらせ」ともいいます。舞台見ながら、「地明かりよりトップ1発のほうがいいよね」とうるさい僕です。。。
2005/02/12 01:36

ririka34 銀ちゃんと出会った時、運命を感じませんでしたか?
2005/02/12 14:08

きゅび
■ryoma2005さん
 ( ゚∀゚)・∵. ブハッ!! いかにも芝居っぽい^^>トップ一発
 でも、必要の無いものは見せない勇気は大切です。ね^^
■ririka34さん
 うーん。
 運命というよりも、助けなきゃ的な使命感のほうが強かったかも。
 どうだろうなぁ。
 15年くらい昔の話なので^^;
2005/02/13 16:46

☆やすたん★ ほほぅ。ドキドキ
2005/02/28 02:48
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by hinemosunorari | 2005-02-11 01:18 | 日々のよしなしごと | Comments(0)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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