きゅびの、ひねもすのらりノウタリン。

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<   2008年 06月 ( 10 )   > この月の画像一覧

華麗に雑記。

昨日は気分が悪くて、吐き気で目が覚めた。
従って誕生日の朝一番でこぼした台詞は「うぇ・・・。」であった。
実は昨日が39回目の誕生日だったりしたわけであるが、
僕は家族と離れ、自宅から徒歩で15分ほどの場所にあるホテルで朝を迎えていた。

深い理由があって家族と別居しているわけではない。
懇意にしているプロダクションの株主総会が自宅近くの某ホールで催され、
その照明の仕事を担当したら、便宜を図ってホテルを手配してくれただけである。

ホテルから総会会場のホールまでは徒歩10分。自宅からだと徒歩15分。
このたった5分ぽっちの為に、「自宅が近所なので、ホテルの手配は無用です。」という言葉を
簡単に飲む込む僕がセコイかセコくないかという議論は、今のところ必要ない。
そんな事よりも大切なのは、せっかく厚意で手配して頂いたホテルなのだから、
深い感謝の気持ちをもって宿泊するという事であると信じる。

そんなわけで前夜は「誕生祝い前哨戦」と題して、地元駒沢の隣町である三軒茶屋にて
華々しく盛大に酒を飲んだ事は、皆様の想像に難くないところである。
感謝の念を深く抱きながら盛大に飲み、盛大且つ無惨に散ったと言うだけの話である。
とりわけ深夜2時に食した通称「アゴラーメン」というトビウオだしのこってりラーメンがいけない。

名物・アゴラーメンの善し悪しを説くつもりなのではない。
深夜2時に泥酔した挙げ句、こってりラーメンを食するという愚行は、
事物の分別をわきまえた節度ある39歳紳士の良識にもとる行為であるといえよう。
おかげで記念すべき誕生日の午前中は、胸焼けとの戦いだったという話である。

今後こってりラーメンのタイムリミットを午前1時30分とする事を固く誓った次第。
いや、そもそも「酒を断て」と言われそうな気がしてならない今日この頃、
記事のタイトルの「華麗」とは当然「加齢」でしかありえないのであった。
あしからず、あしからず。
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by hinemosunorari | 2008-06-29 07:11 | 日々のよしなしごと | Comments(18)

女神の在す砂庭にて・・・最終回

「おい、きゅび。お前、眠りすぎだ。
 いい加減に目を覚ましやがれ。」
そう言ったのは、紛れもなく広さんだった。
どういうことか事態が飲み込めずにいたが、ようやくわかった。
天国での嬉しいご対面という場面だ。

僕はうめきながらうっすらと目を開けた。
眩しさに目が慣れてくると、最初に見えたのは白い天井だった。
次いで、白い壁が見え、風に揺れるクリーム色のカーテンが見え、
その向こう側には木々の緑が初夏の風に気持ちよさそうになびいているのが見え、
最後には吊された自分の右足が見えた。
起き上がろうとしたところ、左右の腕には点滴が打ちこまれている上に、
鼻の穴にはチューブが刺さっていた。

「よう、また会ったな。」
そう言う声の方向を顔だけねじって見てみると、
広さんが同じようにチューブだらけの状態でベットに寝そべっていた。
「なぁ、広さん。最近の天国じゃ病院の真似事が出来るのか?」
「バカ野郎。死んじゃいねぇよ。俺もお前もな。
 それにしても、アレだな。
 オカマとつるんで革命を煽動するとは、たいした色男だな。
 ははは・・・イテテ。痛え。」
「か、革命?」
「ああ。そうさ。
 お前と茂子さんが世の中を動かしたんだ。
 言って見りゃ英雄さ。教科書に載るぜ。
 ま、発端は俺のメッセージだったんだがな。くくく。」
「くくく、じゃないよ。
 あんたがちゃんとエロDVDを仕込んでおいてくれないから、
 俺たちは死にそうなめに・・・ああ、茂子さんは?茂子さんは無事なのか?」

Q'S EYEを作動させて、DVDを放送するという大役をになった彼女が、
果たして無事でいるかどうか、心配でならなかった。
何としても生きていてもらいたかった。

「広さん、例の店の茂子ママ、消息を知らないか?」
尋ねると広さんはぞんざいな身振りで反対側を見てみろと促した。
首を反対側にねじると、全身包帯だらけチューブだらけのミイラ男が一体横たわっていた。
「誰だ?お前。」
「モゴモゴモゴモゴ・・・。」

ミイラ男は何かを言っているのだが、何せ顔もどこもかしこも包帯で巻かれているので、
こいつが何者で、何を何と言ってるかサッパリ分からない。
「モゴモゴモゴモゴ・・・。」
「そいつはな、オカマとつるんでなんていう蔑視発言は許さないって言ってるんだ。」
見かねた広さんが、笑いを噛み殺しながら通訳した。
「集中治療室を出て、お前が目覚めるまでの4,5日は話し相手が奴しかいなかったから
 今じゃ言ってることの大概は理解できる。」
「じゃあ、このミイラ男・・・いや、ミイラみたいな人は茂子さんなのか!」

喜びの余り大声を上げると、ミイラは辛うじて包帯の巻かれていない右手の指先で
Vサインをつくって見せた。
無事と言うには三名ともあまりに痛々しい姿ではあるが、
こうしてどうにか再会できた事が素直に嬉しかった。

「俺はな、きゅび。生死の境をさまよっている間、女神の裁きを受けたんだ。」
「あ?何言ってるんだ、広さん?」
「狙撃された俺が吹っ飛んだ先の世界は、三途の川じゃなくて女神の裁きを待つ砂庭だった。
 で、そこで俺は光に包まれた女神に会ったんだ。」
「裁かれたのか?女神とやらに。」
「ああ。彼女がやり残したことはないかって聞くから、俺は無いと答えた。」
「そしたら?」
「曰く、やりかけたことを最後までやり通しなさいと。
 こっちの世界に来るにはまだ早いわ、と。
 で、現世に返された。」

広さんはそこまで話して、僕のベッドに封筒をひとつ投げてよこした。
見てみろという言葉に促されて書状を読んでみると、それは除幕式の案内状だった。

「やり残したことのひとつかもしれん。
 一ヶ月後、渋谷のQ-FRONT前に、俺たち三人の銅像が建つそうだ。
 渋谷区長殿が除幕式に参加してくれだとよ。」
「銅像?!エロビデオを片手に戦った戦士ってか?」
僕は笑いを堪えきれずに広さんに言った。
「なんちゅーか、あれだ。ひとつ質問してもいいか?
 その広さんを裁いた女神ってのはさ、広さん。
 好みも当然あると思うけど、一体どのAV女優だったんだい?」

僕らは大笑いすると同時に、襲ってきた激痛にうめきながらそれぞれ大声で悪態をついた。
アホらしい招待状は、丸めてゴミ箱に放り込んだ。
開けはなった病室の窓から自由に吹き込む風が、何とも言えず最高に心地よかった。
こんな瞬間も何もかも、全ては未来の為にある・・・そう思える緩やかな昼下がりであった。





                                          終わり
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by hinemosunorari | 2008-06-17 05:48 | 日々のよしなしごと | Comments(10)

女神の在す砂庭にて・・・14

「おいっ、カメラ!震えるな!しっかりと映像に残すんだ!」
中継車から飛ばされた映像は、調整室に入っていた者全てを釘付けにしていた。
いや、それは放送局だけではなかった。
緊迫した映像は速報で、また衛星中継で、
国内はもとより海外の家庭のTVまで瞬時に届いた。

カメラはこれでもかと追い続けた。
立ちこめる硝煙と催涙ガスと発煙筒の煙を。
火を吹いて黒煙を上げている特殊車両の数々を。
人々と機動隊の入り乱れての争乱を。
権力の前に次々に打ち倒される民衆の叫びを。

きゅびがハシゴ車の梯上から転落するに至り、状況は一気に制圧される気配が強まった。
首謀者と共に反乱の炎は立ち消える。
誰もがあきらめかけたその時、小さな異変をカメラは捉えた。
「おい、あれを見ろ!様子がおかしいっ!」
カメラが焦点を合わせた先で、機動隊員同士が互いの胸ぐらをつかみ合っていたのだ。

はじめは極めて小さな異変だった。
だがそれは、またたく間に波紋を広げ、波のようになった。
ある警察官は制帽を脱ぎ捨て、ハシゴ車に駆け寄ると、民衆と共に機動隊に立ち向かった。
別の警察官は転落したきゅびに駆け寄り、緊急無線で救助を要請しながら、
懸命の蘇生措置を繰り返した。

自由への渇望はあらゆる障壁を乗り越える。
一度おきた小さな波紋はやがて波になり、誰も止めることの出来ない大きな潮流へと
すぐに姿を変えていった。
指令に背き、自由の名の下に、皆が集まりはじめたのだ。

「俺たちは、自由を求めてたぎるこの血を腐らせちゃならねえんだ。
 かならず、誰かに受けてもらわなきゃ、渡さなきゃならねえんだ。
 そうやって時代が作られてきたように、俺たちもそうやって未来を作ろうじゃねぇか。
 次の世代に胸を張って渡せる未来を作ろうじゃねぇか。」

この一瞬も何もかも、すべては未来のために。

その時である。
Q'S EYEに隣接する二つの巨大ビジョン、スーパーライザとフォーラムビジョンが突然作動した。
放送されたのはTVのニュース速報そのままであった。

突然の報道が流れるや、悲鳴と地鳴りのような歓声が湧き起こった。
二つのビジョンには各地で湧き起こる大規模な反乱の模様と、
民衆により占拠される国会議事堂と首相官邸が、次々に映し出されていった。
ここに、奇跡はおきたのだった。

昨夜からずっと降り続いていた雨は、いつしかあがっていた。
渋谷駅ハチ公前広場に、雲を切り裂いて本当の夜明けを告げる光線が幾筋も降り注ぐ中、
人々は手にした自由の喜びに、いつまでも打ち震えるのであった。


                             次号ようやく最終回。
                             どちら様もお疲れ様でした。
                             で、つづくなワケです。
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by hinemosunorari | 2008-06-12 11:42 | 日々のよしなしごと | Comments(6)

女神の在す砂庭にて・・・13

「きゅび、無事か?
 お前が無事に、このメッセージを受け取ってくれていると信じている。」
確かにそう広さんは言った。
と言うことは、取り違えたのではない。
広さんは何らかの確固たる意志を持って、このDVDを僕に託したのだ。

「驚かせて、すまんな。
 俺なりに思うところがあって、こうさせてもらった。
 エロDVDはナシなんだ。

 なぁ、きゅび。
 ひとつ言っていいか?
 確かに俺はエロビデオが好きだ。・・・いや、どっちかっつーと大好物だ。
 男なんだ。何が悪い?
 煙草だって吸えなくなっちまったし、酒だって飲めなくなった。
 何でそんなことを政府に規制されなきゃならん?

 お前も薄々気がついていると思う。
 確かに俺はエロビデオを抱えて国に反旗を翻した。
 だけど、エロビデオはひとつの契機に過ぎん。
 俺の真意はエロビデオを存続させる事なんかじゃないんだ。
 そんなものは、人間が平和な暮らしを営んでいりゃ、どこからともなく出回ってくる。
 俺はその平和な暮らしこそを存続させたいんだ。」

少なくとも、僕が託されたDVDはエロビデオなんかじゃなかった。
広さんはカメラをしっかりと見据えたまま・・・
いや、カメラレンズの向こうにいる僕をしっかりと見据えたまま語り続けた。

「自由って何だ?きゅび。
 俺たちが愛する自由って、何だ?
 安っぽい標語とか知れきったフレーズなんていらねぇんだ。
 一人一人が自由の意味を在り方を、自分自身で判断することが、
 自由への第一歩なんじゃねぇか?

 その上で、自由を掴み取ろうぜ。
 自由を抱いて叫びを上げようぜ。
 俺たちは、自由を求めてたぎるこの血を腐らせちゃならねえんだ。
 かならず、誰かに受けてもらわなきゃ、渡さなきゃならねえんだ。

 ああ、もう時間がねぇ。
 もうすぐ連中が踏み込んで来る。
 ・・・だから、頼む。
 このディスクを・・・いや、俺の血を、
 お前に受けてもらいてえ。
 
 そして、もしもお前が倒れるときは、お前のその血を誰かに渡してやってほしい。
 そうやって時代が作られてきたように、俺たちもそうやって未来を作ろうじゃねぇか。
 次の世代に胸を張って渡せる未来を作ろうじゃねぇか。
 なぁ、きゅび。」

広さんが映像の中で、僕に向けて最高の笑顔を見せて親指を立てたとき、
突然目の前が真っ赤に染まって、一切のものが見えなくなった。
ヘリコプターから発射された催涙弾のうちの一発が、僕の額に命中したのだった。
僕は流血の激しい額を押さえつけようとしたが、腕が全く言うことを聞かず、
そのまま前のめりに倒れた。
地上の争乱が、どこか遠い国の出来事のように感じられた。

                 

                          そして、もうほんのちょっとだけつづくなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-11 18:44 | 日々のよしなしごと | Comments(8)

女神の在す砂庭にて・・・12

「この瞬間を、未来へとつなげるために!
 全ては・・・すべては未来のために!」

そう叫んだ直後、突如僕の背後が輝きを放った。
450平方メートルもの巨大LED「Q'S EYE」に茂子さんが光を点した瞬間だった。
「うぉ!」
居合わせた誰もが、突如差し込んだ光に思わず声をあげた。

僕は傾いたハシゴの手すりにしがみつきながら後ろを振り返った。
硝煙と催涙ガスと発煙筒の煙が立ちこめる中、目に飛び込んできた映像は、
僕の期待していた「伝説のAV女優スペシャル」ではなくて、
広さんのたった一人の愛娘の愛くるしい笑顔だった。

「まずいっ!」
Q'S EYEを睨みつけて叫んだ。
よりによって広さんはこの世に残された最後のエロDVDと、
自分の家族の日常をおさめたDVDを取り違えたのだ。
「バカな!プランが台無しになる!」
僕は思わず悲鳴を上げた。

計画では、世界各国に衛星同時中継される、空前絶後のエロビデオ上映会になるはずだった。
自衛隊員、警察官、機動隊員、憲兵といった国家権力の手先どもの任務遂行に対する熱意を、
粉々に打ち砕く芸術的且つ扇情的且つエロティシズムにあふれた映像が、
450平方メートルの巨大ビジョンにデカデカと流されなければならなかった。
自分たちの運命はともかく、圧政を施す時の権力者共に、ギャフンと一泡吹かせるために。
圧政に屈している全ての人の目を覚ますために。

だが、何たることだろう。
きっと追っ手に追われてあわてた広さんは、自宅のスタジオに火を放つときに、
ディスクを取り違えてしまったに違いない。
この世にたった一枚だけ残された、貴重なエロDVDは、
すでに数時間前に灰燼に帰していたということになる。
権力側の一団がハシゴ車への突撃を再開した。
「ああ、もうおしまいだ。
 このまま為す術無く、犬死にするのだ。」
体中から力が抜けた。

催涙ガスが上空まで立ち上ってきていた。
気管が焼けるように熱く、呼吸もままならない。
咳が止まらず、痛みで出る涙が視界を奪った。
涙が出たのは、ガスのせいだけではない。
本当の理由は、全力は尽くしたが政府に一矢も報いることのかなわなかった無念だった。

Q'S EYEの映す映像も眼下で繰り広げられる争乱も、
かすんで見えなくなったその時である。
聞き覚えのある声が突然聞こえた。

「きゅび、無事か?」
僕は自分の耳を疑った。
声の主は広さんである。
「お前が無事に、このメッセージを受け取ってくれていると信じている。」
僕はガスにやられた目をこすって、必死で画面を見た。
広さんがQ'S EYEの中から僕に語りかけていているのだった。
「広さん?どうして?」
突然の予期せぬ事態に、僕の思考は完全に停止した。

「おいっ!あれは昨日血祭りに上げられた反逆者共の首謀者じゃないか!」
各局のディレクターが叫んだ。
叫んだ内容は、みな同じだった。
「Q'S EYEを写せ!
 映像の全体を押さえるんだ!」
その号令に呼応するように、それまできゅびを追っていたカメラも、
争乱の模様を追っていたカメラも、
警察官とチャイナドレスを着たオカマ達の殴り合いを追っていたカメラも、
全てのカメラの焦点はQ'S EYEにシフトした。



                           もうちょこっとだけつづく、なワケです。
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by hinemosunorari | 2008-06-10 23:21 | 日々のよしなしごと | Comments(4)

女神の在す砂庭にて・・・11

茂子が解錠するのと、ドアが乱暴に開かれるのと、消火器の噴射はほぼ同時だった。
ひるんだ捜査員を蹴散らし、つかみかかってくる捜査員を空の消火器で殴り倒して、
茂子は通路に飛び出した。
目指すは電源室。
ハイヒールを脱ぎ捨て全力で駆け出した背後で、
「野郎!」という怒号と共に2度3度銃声が響いた。

「うがっ!」
弾丸が茂子の肩を貫いた。
純白のチャイナドレスがみるみる鮮血で染まった。
だが倒れている暇はなかった。
「痛いじゃないの!!」
茂子は絶叫して振り向きざまに消火器をぶん投げた。
鈍い音と共に「どへっ!」という短い悲鳴が聞こえた。

銃創を負った肩を押さえながら、茂子は懸命に非常階段を上った。
大量の失血でややもすると意識が消し飛びかけたが、
自由を愛するする心とオカマの魂が、彼女の身体を支えた。
屈するわけにはいかなかったのだ。
手すりにしがみつき階段を上がり、力尽きると今度は這って廊下を進んだ。
電源室の前にたどり着いたときには、もうほとんど力は残っていなかった。

やっとの思いでドアノブにすがりついてドアを引き開け、室内に転がり込んだ。
階下から階段を駆け上がってくる何人もの足音が聞こえた。
茂子はドアを閉めて施錠した。
足音の一団はすぐに電源室の前にたどり着いた。
なんの警告も発しないところを見ると、今度は警察や機動隊ではあるまい。
おそらく自衛隊かもしくは対テロ特殊部隊だろう。

だが、もはや関係ない。
ドアの鍵を粉砕するにしても何にしても、もう主幹電源のブレーカーは目の前だ。
こっちの方が早く目的を遂げる。
壁に爪を立ててかきむしりながら茂子はどうにか身体を起こした。
分電盤の扉を開けた時には全ての爪がはがれていた。
いくつかのブレーカーのうち「Q'S EYE主幹電源」と書かれたものが目にとまった。
あとはこのスイッチを上げるだけだ。
「この・・・瞬間を・・・未来のために。」

******************************

茂子の人生で、はじめての戦いだった。
幼い頃から厳しい両親の元で育ち、絶えず自分を殻に閉じこめてきた。
両親や周囲への反発もあり、17歳でこの道を選んだ。
全ては自分を解き放つためだと今まで信じていた。
誰からも理解を得られぬまま両親とも絶縁し、あらゆる交友を絶った。
そして、ただひたすらオカマの道を邁進してきた。
 
そのことには何ら悔いはない。
だが、今この瞬間になってはじめて気づいた。
オカマになったことも、やはり自分で自分を殻に閉じこめていたのだ。
この狭くて、暗い陰ばかりの社会に逃れてきたのだ。
 
長い間一人きりで戦い続けた孤独の呪縛を解くスイッチが、いま茂子の目の前にある。
電気の消えた暗い店できゅびのこのプランを聞いたときから、こうなる予感はあった。
けれども、これまでずっと背を向け続けていた自分の人生に、
正面切って向き合える最初で最後のチャンスだと直感した。
こうなることも、自分が望んでいたのかも知れなかった。

******************************

「み・・・未来に生きる、全ての人のために。」
あらゆる呪縛を解放するスイッチに血に染まった手を伸ばしたその時、
鉄扉の外で小さな声がした。
「よし。爆破しろ。」


突然の爆音と共に、吹っ飛んだ鉄製のドアが茂子の身体に食い込んだ。
悲鳴を上げる間もなかった。
全身の骨が砕ける音がした。
だが、それでも茂子の意志だけは折れなかった。
ブレーカーにかかった指に最後の力を込めてスイッチを押し上げた。
スイッチのはいるカチッという音と共に、茂子の全身から痛みも苦痛も背負ってきた苦い負い目も、
何もかもが見事に消え去った。
彼女の全ては解き放たれた。

力尽きて崩れ落ち、突入してくる特殊部隊を消えゆく意識の中で感じ取りながら、
茂子は人生で初めて味わう清々しい達成感に酔いしれた。
一片の後悔もなかった。

「勝負は、私の勝ちよ。
 ざまぁみなさい。」



                                渋谷を飲み込む争乱はいよいよ最高潮に!
                                情熱と無駄のSF巨編進行中!
                                で、つづくなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-08 17:06 | 日々のよしなしごと | Comments(3)

女神の在す砂庭にて・・・10

円山町の空爆は回避された。
朝陽の中、普段は猥雑で下卑た街がキラキラ輝いて見えた。
僕には最初から勝算があった。
そのことは茂子さんの店で、しっかりと伝えてある。

*******************************

「いいか?茂子さん。
 政府は僕の命を狙ってはいるが、報道カメラの前じゃいきなり狙撃はしまい。
 自分たちの支持を失いかねないからね。」
「なるほどね。あいつらの考えそうな事だわ。」

「僕のプランの大詰めは、つまりこう言うことなんだ。
 君がハチ公前広場に集めたマスコミの前で、僕が演説をする。
 当然、映像は即時中継されて、世界中に放送される。
 国家の手先どもはカメラの前じゃ何も出来ずに僕の演説を聴くしかないわけだ。
 でもって演説の最後に、君がQ'S EYEを使って、広さんのディスクを再生する。
 するとどうなる?
 俺の背後にデカデカと禁じられた映像が映し出されるだろ?
 世界中にヤバい映像が中継されるって寸法だ。」
「とても痛快じゃないのさ!いいわ、それ。やっちゃいましょうよ!」
「終わりじゃねえんだ。聞いてくれ。
 で、中継は途中で打ち切られるだろう。
 だけどな、考えてもみてくれ。自衛隊員も警察官も機動隊員も憲兵達も、みんな普通の男さ。
 奴ら、絶対に広さんが厳選した特別エロ映像を食い入るように見てるに違いない。
 口をポカンとあけてな。ヨダレなんかデレーっと流してな。」
「うんうん。」
「そこで、だ。」
「そこで?」
「自首する。
 三つの任務のうち、最後の一つは自首する事だ。」
「えー!!」

茂子さんはこれ以上ないくらい驚いてみせた。
だが、驚いたって駄目だ。
渋谷を火の海にせず、これ以上無益な殺生もせず、
自分たち主導でこの盛大な花火を打ち上げて勝利のうちに幕を引くには、
連中が変に前屈みで不格好にうずくまっているこの時が最高のタイミングなのだ。

「わかったか?茂子さん。
 後世に語り継がれる華やかな反逆劇にするには、捕まっちゃいけないし、
 狙撃されてもいけない。自分たちで鮮やかに幕を引かなきゃならないんだ。」
「わかったわ。私、頑張る!」

******************************

そう強い口調で言った茂子さんを僕は思い出した。
うん、大丈夫だ。彼女はきっと今頃調整室でTV中継を見ながらスタンバイしているはずだ。

眼下に見えるハチ公前広場を見下ろすと、大勢のマスコミカメラが僕を捉えている。
新聞や雑誌の記者も、白いチャイナドレスを着たオカマやエロビデオ愛好家も、
警官も自衛官も機動隊員も、皆僕をじっと凝視している。
僕は深呼吸をひとつして、手にしたマイクのスイッチを入れた。

「夜が明けました。
 政府による暴力的な実力行使は、回避されました。
 僕がこうして姿を現したからです。
 だから、円山町を空爆する意味が無くなったのです。
 
 ここまで来るのに、たくさんの犠牲を払いました。
 愛煙家、酒飲み、エロビデオ鑑賞愛好家だけにとどまりません。
 煽動されるまま正気を失った多くの人もまた、犠牲者なのです。」
 
地上で機動隊や警察があわただしく動き出す気配がした。
構わずに僕は続けた。

「現政府の行っている事の善し悪しは、5年後10年後に正しい評価が下されましょう。
 それよりも、本来僕らは自由の民だったはずです。
 愛して止まなかった自由のもとに立ち帰るべきなのです。
 
 皆さん、是非姿を現してください。
 政府による圧政の意味を無くすために。
 自由に夜明けをもたらすには、皆さんの勇気が必要なのです。
 この瞬間を・・・。」

その時、大きな衝撃音がしてハシゴが突然揺れた。
装甲車が体当たりをしてきたのだ。
黒煙を吐きながらハシゴ車は大きく傾いた。
同時に機動隊がどっと突撃を開始し、警官や自衛隊も続いた。
気配を察したチャイナドレスの集団が阻止せんと立ちふさがって、地上の争乱は壮絶を極めた。
そしてついに、上空のヘリコプターから催涙弾が一帯に撃ち込まれた。
ハシゴの途中で格闘していた若い消防隊員が機動隊員数名に引きずり下ろされて
殴り倒されるのが見えた。
硝煙と催涙ガスが立ちのぼる中、呼吸が出来なくなる前に僕はマイクを握りしめて叫んだ。

「どうか、立って下さい。
 姿を現してください。
 この瞬間を、未来へとつなげるために!
 全ては・・・すべては未来のために!」

*******************************

「開けろ!貴様、このドアを開けんか!」
鉄扉一枚を隔てて、捜査員達が怒鳴っていた。
店から放たれた警察犬が、茂子の潜伏場所にたどり着くのに、たいした時間は必要なかった。
「このオカマ野郎、ここに隠れてるのは分かってるんだ!」

茂子は決断を迫られていた。
Q'S EYEを操作するPCの使用方法は把握できた。
だが、それだけではこの巨大LEDはなんの映像も映さない。
Q'S EYE本体の主幹電源が切られているのである。
2階上の電源室にある大元のスイッチを入れなければ、

いくらPC側で映像を出力しても無駄なのだ。
その主幹電源を入れるためには、このドアの向こうにいる捜査員達を突破しなければならない。
もうすぐきゅびがやってきて演説を始める時間だ。

「やってやろうじゃないのよ。
 オカマオカマって言うけどね、アタシらにも曲げちゃいけねえ信念ってもんがあんのよ。
 この際、オカマの生き様とっくりと見せてやるわ。」

茂子が決断したとき、突然TVがライブ中継画面に切り替わった。
興奮して現場の状況を伝えるリポーターの次に映ったのは、きゅびであった。
時が来た。
茂子はPCでDVDの再生ボタンを押し、再生を確認すると傍らの消火器を手に取りドアの前に立った。

「アンタ達、うるさいのよ!
 今開けてやるからちょっと待ってなさい!」
そう怒鳴り返しながら、茂子は消火器の安全ピンを引き抜いた。
幸い、ドアは通路側に開く設計になっていた。

鍵を開けても奴らが突入してくる前に、一瞬の時間がある。
茂子は大きく息を吸い込んでからドアの鍵を開けた。


                                  緊迫の展開!
                                  手に汗握る情熱と無駄のSF巨編進行中!
                                  で、つづくなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-08 08:00 | 日々のよしなしごと | Comments(2)

女神の在す砂庭にて・・・9

「本部より各部署へ。本部より各部署へ
 反逆者は二人とも女装趣味の変態で、白のチャイナドレスを着用して、別々に逃走している。
 最後のディスクをどちらが持っているかは不明。
 政府の要求に応える見込みは目下のところ無い。
 先ほど捜査に警察犬を導入した。
 首都警察のメンツにかけて、自衛隊ごときに先を越されるな!
 手段は問わない。二人を見つけ次第仕留めろ!」
警察無線が茂子の足元で叫んでいた。

「女装趣味の変態とは失礼しちゃうわね。
 これが私の正装よ。」
Q'S EYEの操作方法習得に夢中になっていた茂子には
それ以上は耳に入らないようだった。
茂子の意識の外側で、無線は叫び続けた。
「・・・繰り返す。
 断じて先を越されるな!
 二人の反逆者を、見つけ次第仕留めるのだ!」

*******************************

夜明けの差し迫った渋谷NHK放送センター前。
「兄さん、ちょいと良いかい?」
はしご車の運転席に座り、仲間が戻ってくるのを待っている若い消防隊員に、
僕は助手席から声をかけた。
「ひぃっ。」
彼が素っ頓狂な声を上げて驚いたのも無理はない。
チャイナドレスでめかした男が、暗闇から実弾装填済みの拳銃を向けてきたら、
大抵の人間は驚く。

ズカズカと車内に乗り込んで、銃口をを突きつけながら僕は続けた。
「銃の扱い、よく分からないんだ。素人なんでね。
 とっさの場合じゃなくても引金を引いてしまうかも知れないし、
 弾が出なけりゃこいつでぶん殴るかも知れない。
 いずれにしても少なからず痛い目に遭うのは君だ。
 わかったら、抵抗しないでエンジンをかけてくれ。」
「・・・・・。」

拳銃を突きつけられて彼はどうすることも出来ずに、
手をあげたまま銃口を見たり、NHKの受付に向かった仲間達の方を見たりしていた。
「火災を心配してるのか。さすが消防士だな。
 だいうじょうぶ。NHKの火災ってのは誤報だ。
 僕が作ったデマさ。
 それから、もう一つ安心させてやろう。」
そう言って僕は車内灯を点けた。

「あ!あんたは!」
「そう。いまや日本中の国家権力に狙われている、最後のエロビデオ保有者さ。」
目を白黒させている彼を真っ直ぐに見つめて言った。
「こんな真似をしてしまって、すまない。
 だが、どうしてもこのハシゴ車が必要なんだ。時間も無い。」
もう政府が予告した円山町空爆まで、時間はほとんど残されていない。
一帯が火の海になるのを防ぐ、最後のチャンスだった。

「たのむ。30分だけでいいから、君の力を貸してくれ。
 この車を渋谷駅前に回してほしいんだ。」
彼は両手をあげたままゆっくり二度三度うなずいた。
そして静かに右手を下ろしイグニッションキーを回しながら、震える声でこう言った。
「あ、あの・・・。お、お、お会いできて光栄です。」
「は?!」

今度はこっちが素っ頓狂な声を上げる番だった。
「あ、あの・・・。じ、自分は国家公務員ではありますが、個人的には政府のやり方に反対です。
 きゅ、きゅびさんの行動を支持しています。」
「・・・・・・。マジか?」
「はい。それは、自分だけではなくて、署の仲間もほとんどが同じ考えであります。」
僕は絶句した。
「ま、まぁ、いい。
 ともかく、この車を渋谷駅前のスクランブル交差点へ。
 急いでくれ。時間がない。」
「分かりました。任せておいてください。」

彼はひと踏みアクセルを思いっきり空吹かしすると、ギアをバックに叩き込んで、
NHK前の操車場で勢いよくハシゴ車を反転させた。
自由への渇望はあらゆる障壁を乗り越える。
ハンドルを切り返す刹那、何故か彼の瞳の奥に反逆と情熱の炎が
バホバホと燃えさかっているのが見えたような気がした。
こうして手に入れたハシゴ車は、けたたましくサイレンを鳴らしながら、
渋谷公会堂の脇をすり抜け、公園通りを駅前に向けて下っていった。

*******************************

渋谷駅ハチ公前広場は,、混迷の度合いをひときわ強めていた。
自衛隊員と警視庁の捜査官と憲兵と機動隊員がつかみ合いの喧嘩をはじめ、
各部署の狙撃チームがよりよい狙撃場所を得るため互いに銃撃戦を繰り広げた。
しかも、国内外のマスメディア各社が中継・取材チームを編成し駅前に到着する頃、
時を同じくして大勢の白いチャイナドレスを着用したオカマとかオタクが一堂に集結して、
駅前一帯で飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをおこしはじめた。

自衛隊の指揮官は苛立ちのあまり「あいつら、片っ端から撃て!撃て!」と絶叫を繰り返したが、
攻撃ヘリは各局の飛ばしている報道ヘリに阻まれて、思うような高度が確保できずにいた。
さらにどこかで流出したネタを聞きつけたのか、戦場カメラマンとか、フリーのルポライターとか
風俗ライターとか江頭2:50といった魑魅魍魎まで騒動に合流しはじめて、
現場は秩序とか統制とか良識といったものを、何もかも失った混沌の世界と化してしまった。

気がつけばそんな戦場のただ中、QFRONTビルの正面に一台のハシゴ車が停車していた。
そして、転倒防止のアウトリガーを張り出し車体を安定させたかと思うと、
スルスルと15mほどハシゴを上空に伸ばした。
地上で操作していた消防隊員がハシゴの先端に向かって叫んだ。
「下のことは僕に任せてください!決して誰も上には上げさせません!」
その若い消防隊員がサーチライトを点灯させ、ハシゴの先端に向けた。
放電管の強い光束が暁の空に照らし出したのは、
他ならぬこの世で最後のエロビデオ保有者・きゅびであった。

最初に気づいたのは、イギリスBBCの飛ばしていた報道ヘリだった。
BBCのモニターカメラが拡声器を握ったきゅびの姿を映し出した瞬間、
マスコミ陣は先を争ってカメラをQFRONTビルに向け、リポーターはマイクをひっつかんで、
ライブ中継を始め、カメラマンは一斉にレンズキャップを外し、反逆者の表情に迫った。
「見ろ!反逆者だ!スクープだぞ!しっかり撮れよ!」

騒然としていた空気が一瞬のうちに凍りつき、全ての者の動きが停止したその時、
東の空が一段と朱に染まり、渋谷のビル群の陰影がみるみる一斉に深まった。
夜が明けたのだ。


                                渋谷駅前が空前の争乱に!
                                情熱と無駄のSF巨編進行中!
                                で、つづくなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-06 19:12 | 日々のよしなしごと | Comments(3)

女神の在す砂庭にて・・・8

渋谷の街を空爆から守る為には、僕が円山町にいない事を示さねばならない。
茂子さんの店をチャイナドレス姿で飛び出した僕は、
店がハネた後のオカマになりすまして、まんまと包囲網を突破する事に成功した。
茂子さんの機転に感謝であった。

その後社会の様子を探ろうと、茂子さんが逃走用に用意してくれたオンボロママチャリを
ガシャコンガシャコン必死で漕いで駅の方へ向かってみると、
渋谷駅前から道玄坂円山町一帯はいたるところで怒号が飛び交う大混乱に陥っていた。

頭上の激しい騒音の方を見やると、報道ヘリや警視庁のヘリが超低空で飛び交い、
更に上空には自衛隊機が空爆のゴーサインを待ちながら低空で旋回していた。
地上は地上で更にメチャメチャだった。
我こそは緊急車両であると信じて、けたたましくサイレンを鳴らしながら交差点に突入してきたパトカーが、我こそは非常事態下における国家の具体的実行力であると信じて交差点に突っ込んできた自衛隊装甲機動車両と激突し、そこかしこで大破炎上していた。

僕はその混乱具合だけを確認すると、くるりとママチャリを反転させた。
行き先は日本放送協会、NHKである。
放送局の占拠?たった一人で?まさか!そんなのムリムリ。
でも、やり方さえ工夫すりゃ公共の電波に自分のメッセージを載せて発信する事は可能なのだ。
それも衛星中継の世界同時配信で。

機動隊員と自衛官がそれぞれのメンツをかけて銃撃戦を繰り広げている
争乱状態のセンター街を全力で走り抜けて、宇田川町の交番へ着いてみると、
警官は皆出払っていて案の定そこはもぬけの殻だった。
僕は交番の電話を使って119番にダイヤルした。

「はい、こちら119番です。火事ですか?救急ですか?」
受話器の向こうから災害救急情報センターのオペレーターの声が届いた。
「火事です!NHK放送センター正面入り口付近から火が出ています!
 建物の2階や3階にも助けを求めている人がいます!至急救助を!」
「分かりました。あなたのお名前と今お使いの電話番号をお願いします。」
「名前はきゅび。今は宇田川町の派出所の電話から通報しています。」
「わかりました。あなたは安全な場所に避難していてください。
 直ちに消防隊員が現場に向かいます。」

そこまで聞いて僕は受話器を下ろし、再びNHK正面入り口へと急いだ。
見上げた空は明るく、夜明けが刻一刻と迫っていることを告げていた。

***************************************

その頃、茂子はある渋谷駅前のビルのコントロールルームに潜入していた。
ビルの名称は「QFRONT」。
渋谷ハチ公前広場にスクランブル交差点を挟んで正対する様にそびえ立つ、
地上8階地下2階からなる渋谷のランドマーク的商業ビルである。

任務の二つ目は「潜入と操作」である。
潜入したといっても、彼女はビルの管理事務所から堂々と入ったのだ。
警察官に扮して。
「警視庁の者です。
 このビルに反逆者きゅびが爆発物を仕掛けたという通報がありました。
 捜査に協力を願います。」
警察手帳をヒラヒラとかざしながらそう言えば、警備会社の人間などイチコロであった。
勿論、制服と警察手帳は拉致した警察官からパクったものである。
よく見ると袖も裾もブカブカなのに、腹周りだけがパンパンで、
おまけに顔面にはうっすらと化粧の跡の残るその姿は、どう見ても異様である。
だが、この大混乱の中そんな事に気がつくほど冷静な者は、誰もいなかった。

コントロールルームまで警備員に駆け足で案内させると、
彼女はやにわに警官の制服を脱ぎ捨てた。
制服の下から現れたのは、彼女の勝負衣装。
純白のチャイナドレス姿であった。
あっけにとられる警備員につかつかと歩み寄り、得意のディープキスで相手を失神させると、
持参した粘着テープでグルグルに縛り上げて便所に放り込んだ。

「時間がないのよ。時間が!
 ええと・・・操作マニュアルはどこ?!・・・あった!!これね!!
 きゅびさんとの合流まであと30分位かしら?
 いそがなきゃ!」
そう言って茂子は目の前の機材の使用方法を習得すべく、
再び頭髪を逆立てて操作マニュアルを一心不乱に読み始めた。

彼女が手にしているのは、他でもない「Q'S EYE」に関する書類。
Q'S EYE とは、QFRONTビルの地上前面約450平方メートルのスペースに仕込まれた
LEDによる国内屈指の大型ビジョンである。

そう。
茂子がきゅびより託された最大の任務とは、
このQ'S EYEを用いて広さんが命に代えてきゅびに渡した、
最後のディスクを放映することなのである。


                        ようやく、仰天のプランの真相が明らかに!
                        まだまだ疾風怒濤の悪のりSFアクション進行中!
                        で、続くなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-02 14:10 | 日々のよしなしごと | Comments(11)

女神の在す砂庭にて・・・7

『マスコミ各位
 最後のエロビデオ所有者による一世一代のご挨拶のお知らせ 
 
 私は茂子と申しまして、渋谷区内でしがないオカマバーを経営していた者でございます。
 昨今世間を騒がせております、最後のエロビデオ所有者・きゅび氏の内通者でもございます。
 この度、そのきゅび氏より、「命を賭して世間様の前で最後のご挨拶をしたい」
 という連絡を受けました。

 どういった内容のものになるのかは、あいにく私の知るところではございませんが、
 この貴重なただ一度の機会を、皆様にお知らせする事が私の役割だと信じて、
 皆様にこの一件を告知するに至っております。

 ■要項
  日時 本日○月○日○曜日 午前5時00分~午前6時00分の間の数分。
  場所 JR渋谷駅ハチ公前広場

 当然の事ながらこの一件は、政府及び防衛省・警察組織の許可しているものではございません。
 報道に関しては多くの障害が予想されますが、皆様の自由報道への熱意で
 困難に打ち勝って頂きたいと願っております。
 真実の報道に携わる、多くのマスコミ関係者の参加を、
 この身を伏してお願い申し上げます。全ては、未来の為に。 

                            ○月○日 
                            バー○○店長 茂子』

夜明け間近の店内。
きゅびを外へ送り出した茂子は、一人パソコンと電話とファックスに向かって、
ろうそくの薄明かりの中、懸命に格闘していた。時間がなかった。
彼女には3つの任務が与えられていた。
その一つめが、「告知と動員」だった。

政府は、夜明けに円山町一帯を空爆すると警告していた。
もうリミットは近い。
誤爆による被害を避ける為に、円山町一帯を封鎖している包囲網は、空爆直前に必ず緩む。
その空白の一瞬が、窮地に立っているきゅびと茂子がつけ込む、唯一無二のタイミングであった。
生じた僅かな隙間に、誘導した報道陣や民間人(エロビデオ愛好家やオカマ達)を介入させる。
憲兵・警察・自衛隊といった、指揮系統の異なる組織が三つ巴で入り混じる現場は、
必ず大きな混乱をきたす。
その混乱が空爆を阻止し、きゅびと茂子を作戦の次の段階へと導くのである。

茂子は右手でファックスをしたため、左手でオカマ仲間に連絡を取り、両足指でPCを操り
大量のメールを送信するという獅子奮迅の働きをした。
その奮闘振りはすさまじく、ヅラの頭髪でさえ逆立つほどであった。

そして、午前4時過ぎ。
世間の一番活性の低い時間帯に、主要マスコミ・制作会社・出版社などに向けて、
ファックスとメールが同時配信された。
最初はたちの悪い悪戯だと一蹴していた各社の制作デスクや編集部も、
メールに添付されていたきゅび本人による動画メッセージを見るや、態度を一変させた。

「おいっ!こいつは、例の最後のエロDVD所有者だ!ホンモノじゃねぇか!
 中継ワンクルー、揃えば誰でもかまわん!大至急渋谷へ急行しろ!!
 それから、緊急放送のスタンバイもしておけ!」

こうしてTV主要キー局の他、ラジオ・新聞・雑誌・ネットTVなど、多くの報道陣が、
国家権力とエロビデオ愛好家とオカマ達のひしめく渋谷駅前に集結する運びとなったのである。


                        怒濤の展開を荒唐無稽というなかれ!
                        愛と希望と情熱と無駄の織りなすSFアクション進行中!
                        で、続くなワケだ。
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by hinemosunorari | 2008-06-01 20:17 | 日々のよしなしごと | Comments(4)