きゅびの、ひねもすのらりノウタリン。

noratari.exblog.jp

<   2007年 09月 ( 6 )   > この月の画像一覧

疾走について。

この場所から逃げ出したいわけじゃない。
誰かから逃がれたいわけでもない。
でも、同じ場所でじっとしていられない。
絶対に、あらゆる人間は駆け出したい衝動を、生まれながらにして持っていると思う。

大好きな彼女に気持ちが伝わった時とか、スポーツで良いパフォーマンスが出来た時とか、
合格発表の掲示板に自分の受験番号を見つけた時とか、何でも良いんだ。
必ず人は全力疾走したい衝動を抑えきれない瞬間が、いくつになったって絶対にある。

********************************

先日の事。
時間があったので子供を連れて駒沢公園に行き、補助輪付き自転車で遊ばせてやる。
子供の成長のスピードというのは、大人の想像力を軽く凌駕していて、
最初は思い通りにならない自転車にえらく戸惑っていた王子も、
2回目では自在に扱えるようになり、3回目には近所の可愛い女の子を振り返りながら、
つまり、完全な脇見運転をしでかすまでに上達した。

親が言うのもバカバカしい話なのだが、我が家の王子は超カワユイ。
故に結構公園などで初対面の女の子に口説かれたりとかしている。
いや、正しくは口説かれまくっている。何とも羨ましい・・・いや、頼もしい限りである。

その日も、彼は公園で初めて出会った年上の女の子と早速親密な仲になり、
二人で補助輪付き自転車をかっ飛ばしたりイチャイチャしたりしながら、
2歳児なりの青春を謳歌していた。
自転車という新しいアイテムを自在に操れるようになった嬉しさとか、
女の子にモテまくりの嬉しさとか、色々な要素があったのだろう。
彼はある時、自転車をおりたかと思うと、「きゃー!!」と大声で叫びながら、
自転車をほったらかしにしたまま、全力で走り出してしまった。

「ちょっと、颯ちゃん!!
 自転車忘れてどこに行くのよ!!」
と、その場にいた嫁が止めるのなんか、彼の耳には全く届いていない。
幕が開いたばかりの人生。
身の回りの事が何もかも新鮮で、撒き散らしたビー玉みたいに一つ一つが輝いていて、
楽しくて楽しくてしかたないのだ。
「まぁまぁ、良いじゃないか。嬉しくて、楽しくて、無性に走り出したくなる時って、
 そういう衝動に突き動かされる時って、大人の僕らにもあるじゃん?」
そう言って嫁をなだめた。

そうなのだよ、颯一郎。
パパにだって、ママにだって、無性に駆け出したくなる気持ちは、とってもよく分かるんだよ。
嬉しい時は全力で喜びを表現すればいい。
悲しい時は全力で泣けばいいし、怒る時だっていっしょさ。
豊かに感情を表現できない事の方が、人間として悲しいじゃないか。なぁ?
例え他の人には分からなくたって、パパはそういう君の輝きをちゃんと理解しているからね。

********************************

まぁ、そんなこんなで随分回りくどい言い方になったが、
駆け出したい衝動が人間には必ずあるという事が言いたかった。
そしてようやく本題に入るわけだが、その・・・なんだ・・・あの・・・。
要するに、今晩は僕が男の中の男として認める広さんと酒を飲む約束がある。
(ご存知ない方は「涙のきゅび節」→「冬桜。」の記事を参照して下さい。惚れます。)
うん。ともかく渋谷で広さんと酒を飲む。
「走り出したい気持ち、よく分かるよね?ね?んじゃ、行ってきまーす!」
そう言って靴に足を突っ込みながら玄関のノブに手をかけた僕の背後から、
地鳴りのような嫁様の心の声が届いた。
「許さん!!」
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-28 01:23 | 日々のよしなしごと | Comments(14)

「後ろ姿美人」について

「バックシャンについて」と書きかけて、思い直して「後ろ姿美人」とした。
半端な和製英語を用いるよりは、芳醇なイメージの湧く日本語を使った方が
読者の脳髄を直接的に刺激すると思った。

このバックシャンと言う言葉は、本来は「後ろ姿の美しい人」をさしていて
転じて「後ろ姿はたいそうそそるが、正面から拝むと実はそうでもない人」という、
なんとも有り難くない意味があるらしい。

そんなバックシャン定義はさておき、鎖骨フェチで知られる私きゅびは、
鎖骨と同時にかなりのバックシャン好きである。
いや、その言い方は語弊があるな。
正しくは「バックシャン好き」ではなく、「美しい後ろ姿フェチ」である。
うん。しっくり来る。
鎖骨と後ろ姿とは、たがいに相容れない要素を多分に含んでいるような気がするが、
好きなものはしょうがない。理屈じゃないのだよ。

そもそも後ろ姿の魅力とは、何と言ってもその無防備な姿にある。
例えば何かを真剣に見つめている後ろ姿とか、
読書だったり仕事だったりに打ち込んでいる時の後ろ姿だったりとか、
信号待ちしている時の後ろ姿だったりとか、数え上げればキリがないのだが、
(注・いずれの場合も姿勢が悪くては台無しである事は、言うまでもない。)
もう後ろ姿の持つ魅力たるや、もの凄く筆舌に難い。

余談ではあるが、「後ろ姿好き」の人は同時に「覗きマニア」の悪札を貼られる事が良くある。
理由は上記「無防備うんぬん」に寄るところが大きい。
これは誤解を通り越して迫害だと僕は断言する。
後ろ姿の持つ繊細な美しさ(うなじやら綺麗な髪やら肩口のカーブやらの総合美)を、
低俗な覗きごときと一緒にされるのは、カレーとクソを同一視するようなものだ。
そんな暴挙が許されて良いはずはない。

いかん、いかん。
この手の話題はどうも熱くなりすぎる傾向がある。本題に戻ろう。
純然たる後ろ姿フェチ・きゅびがもう一点力説したいのは、
後ろ姿は「無防備であるからこそ、多くを語る」と言う事である。

これは欲ボケした人にはイメージが湧くまい。
ちょっと、想像してもらいたい。
季節は秋。朱に染まる夕暮れ時の漁村。
接岸された漁船から両親が引き上げてくるのを、桟橋で待ちわびている子供。
その子を少し離れたところから優しく見守る老婆の後ろ姿。

後ろ姿の魅力とは、まさにこれである。
夕暮れ時のキラキラ輝く海に優しくたたずむ老婆。
間違っても正面向いたカメラ目線じゃどっちらけなのである。
何も訴えずとも、愛しさとか深い慈しみとか、ばっちり伝わるのである。
そう。
後ろ姿フェチが愛するのは、何も若いねーちゃんのそれだけじゃないのだ。
どうだ、参ったか!

さて、そんな後ろ姿フェチである私きゅびが、先日車をバックで車庫入れしたところ、
後部座席に座っていた王子・颯一郎(2歳)から思わぬ賛辞を頂戴した。曰く、
「パパ、パパのバック、かっこいいね。」
だそうである。
何だかよく分からないが、後ろ姿に関するこーいう美意識なんかは、
ちょっと遺伝するのかも知れないと思った、今日この頃であった。
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-24 03:33 | 日々のよしなしごと | Comments(16)

ひと段落ついたのだ。

抱えているビッグツアーの片方、tour2006-2007シーズンが
ここ、福山市にて今日千秋楽を迎えました。
長かった・・・。
キャパ1500~3000人くらいのホールがおおかったのですが
中にはアリーナサイズの公演もあり、とても変化に富んだ・・・言い方を変えれば
毎回毎回苦悩しなけりゃならないツアーでした。

明日は午後の便で東京に戻って、早速来シーズンのツアーの構成を考えなければなりません。
10月の中盤には新しい構成でツアーが始動しますからね^^;
死ぬほど忙しくなるのは目に見えていますが、まだ誰も知らない新構成コンサートを
ZEROから考えるってのも、大変でもあり嬉しくもある今日この頃なんです^^

以前の記事で「秋といえば読書とかブログの秋」と言いましたが、
秋はコンサートツアーの構成変えの季節でもあるのです。
個人的にはどうやら芸術の秋大爆発な感じですね^^;;
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-14 00:50 | かなりどうでもいい | Comments(10)

秋の訪れ

「割とどうでもいい」というこのカテゴリは、最近ではもっぱら更新が滞っている言い訳を
切々と語るという、何とも情けないカテゴリイメージが定着しつつあった。
それじゃイカーン!と突如血圧を約200%上昇させつつ一人部屋で絶叫したのが、
何を隠そう今朝5時半くらいのことである。

大変忙しかった8月を、どうにか気が狂うことなく乗り切ったのは、ヒジョーにめでたい。
でもそれで油断しちゃならんのである。
10月中旬までに福山・周南・広島・熊本・宮崎・鹿児島・函館・札幌・宇都宮・湯沢・和歌山
の各都市に行かねばならず、それはすなわち秋にはもう一度
激しい忙しさの山場を否応なく迎えねばならぬとゆーことであり、
それはすなわち、もう一回くらいぶっつり音信不通になりますよとゆーことでなのである。
いや、参った。そーゆーことなのである。

ちと待て。そもそも言いたいのはそーゆーことじゃない。
今朝ね、随分ほったらかしにしていた「目次」を整備したんですよ。
(多分、こんな事やってる人は全クルルユーザーの中で僕一人だと思うんだけど。)
で、5月からずっと目次を放置していた事にも驚いたんだけど、
一番びっくりしたのは”7月の更新1回。8月の更新一回。”と言う事実。
「何コレ、月刊ブログじゃーん!」
と絶叫しながら、一人バックドロップでしたたか後頭部を床に打ちつけて悶絶したりしたのは
何を隠そう午前6時半頃である。
なかなか、うるさくて迷惑な人だな。オレは。

ともかく忙しいのは忙しかったけど、そんなに長期間ほったらかしにしていたとは・・・。
仮にも季節は秋。秋と言えば夜長。夜長と言えば読書とブログでしょーが。
事実、整備したての目次を見ると、9月は「悲しみの理由」とか「FATHER'S SON」
とか「ムシケラノイノチ」といった大作が目白押しの月だったりするでしょーが。
じんわり訪れるプレッシャーさん。ども、こんにちは。

ま、構想は2つ3つ抱えているんですよ。常に。
その構想を膨らませるために、最近は寝る時間を削ってマフィアもののDVDなんかを
見漁ってるワケなんですよ。形になるのはまだ先みたいですけどね^^;
どうぞ気長に気長に、お待ちいただければと思います^^

これからも、全く方向性のないブログ「きゅびの、ひねもすのらりノウタリン。」を、
どうぞ宜しくお願いいたします(*- -)(*_ _)ペコリ


                                  熱いハートと寒いギャグ
                                  自称クルルきってのナイスガイこと・・・
                                  きゅび
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-11 00:56 | 割とどうでもいい | Comments(12)

2枚目はツライよ。

マイ・アイドルは誰?ときかれたら、沢田研二と答える。
だからといって、僕はホモじゃない。
他に好きな人はたくさんいる。
だけど、最初に僕が惚れ込んだのは沢田研二だった。

いまはふくよかだが、はじめて見た頃はシャープだった。
尖っていた。艶っぽいのにダンディーだった。
歌う楽曲も素晴らしかったし、衣装も振り付けも斬新だった。
でも何よりも僕の心をノックしたのは、彼が好んでドリフの番組に出演した事だった。
伝説になっている毎週土曜日の渋谷公会堂からの生中継。
子供達に大ウケして乗りまくるトップスター・沢田研二の姿があまりにも印象的で、
これこそホンモノの2枚目だと確信したものだった。

さて、話は変わる。
ハードに毎日仕事に取り組む自称駒沢の2枚目スター・きゅびは、おでこを怪我していた。
理由は簡単。嫁が仕掛けたトラップにはまったのだ。
台所で食器を取ろうとしたところ、「ガスッ」という鈍い音と共に、額に激痛が走った。
「痛てぇじゃねーか!バカヤロー!」と怒鳴りながら見上げると、
シンクの上の収納棚の戸が、半開きのまま放置されていた。

幸い、流血の沙汰にはならなかったが、嫁を咎めると
「あー、わるいわるい。」
と腹を抱えて笑いながら謝ってくれた。
はらわたの煮えくりかえる思いだったが、あまりに頭が痛かったので
事を荒立てずに、そのままトイレに行って独りで泣いた。

で、そんな事は綺麗に水に流して前回の素晴らしい家族絶賛記事を書いたわけだが、
そのわずか1日後、留守番中に台所に飲み物を取りに行ったところ、
再び「ガスッ」という鈍い音と共に、目の前が一瞬白くなった。
前回と寸分違わず同じところに走る激痛。
額をを押さえて呻きながら上を見ると、やはり台所入り口から2枚目の棚の扉が半開きだった。

「バカヤロー!開けたものを閉めときゃ良いだけの話じゃねぇかっ!
 何でそんな簡単な事が出来ねぇんだ!喧嘩売ってんのか、このスットコドッコイ!」
激怒して大声で怒鳴ったが、リビングでは早乙女さんが腹をさらして昼寝してるだけであった。
怒りにまかせて空手チョップで扉を閉めたところ、勢い余って手を挟み指まで怪我した。

鼓動に合わせてジンジン疼く額と指を交互にさすりながら、半開きの扉に向かって説得する。
「なぁ、何でお前はそうやってだらしなく開いたまんまなんだ?
 開けっ放しにする嫁が一番悪いが、お前も扉ならもっと扉らしく
 自分で判断してビシッと閉まったりしたらどうだ?あ?」
「・・・・・・・。」
「なぁ、そもそも同じ2枚目じゃねぇか。
 お互いに傷つけ合うのはもう辞めようぜ。な?な?」
「・・・・・・・。」
「どうだ、相棒?あの女とは金輪際手を切って、次から俺と組まねぇか?
 ちょっとは返事とかしたらどうだ?あ?!」
「・・・・・・・。」

2枚目の扉は何の返事も帰さない。
「ははぁ。わかったよ。お前はクールで口数の少ないタイプの2枚目なんだな。」
と、そう言いかけた時に何の仕掛けがあるわけでもないのに、
問題の2枚目の扉がすっと閉まった。

その絶妙なタイミングが、僕にはなんだか扉がくるりとこちらに背を向けて
「この駒沢に二人も2枚目はいらねぇんだよ。ばーか。」
と言ったように思えた。
いつもの事ではあるが、この家はホームのくせにアウェー気分満点だ。
とりあえず年末の大掃除の時にこんなバカ扉なんか、解体してやると心底思った。
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-10 03:50 | 日々のよしなしごと | Comments(15)

奇跡は今ここにある。

b0182613_13314534.jpg

東京を直撃しそうな、台風が来るらしい。
その影響で今日の東京は突然大雨が降ったり、さぁーと晴れ渡ったり、
なんとも読みようのないゴッドファーザーのような天気だった。

偏屈ものの僕は、いつの頃からか気象庁が嫌い。
理由は僕にも分からないけど、そのせいか未だに天気予報をあまり見ないし、
自分が晴れ男だと思いこんで、基本的に傘を持って歩かない。
まぁ、いいじゃないか。
僕一人が大都会のコンクリートの中で、ずぶ濡れになったところで
誰に迷惑をかけるわけでもない。

そんなわけで超久しぶりの休日の今日、ご多分に漏れずふらりと手ぶらで出かけた。
思い立って家族と近所のレストランに入り、昼食。
ハードボイルドが家族サービスをしちゃいけない法律はない。
予約不要というのは、こんな時助かる。
煌々と輝く真っ白な蛍光灯の下、酒も飲まずにガーリックトーストとイカ墨のパスタを食す。

サイコー。
ニンニクの風味の全くしないガーリックトーストと、
ほのかにビニール袋の味がするイカ墨パスタが一度に食べられて。
しかも、食後のコーヒーはセルフサービスと来た。
まぁいい。

言われるがままに全自動珈琲抽出機の前に立つ。
脇に山積みされている可愛らしい花柄の珈琲カップを、
恥ずかしさ満点で所定の位置に設置して、エスプレッソのボタンをポチッと押す。
機械は、格調高い言い方をするなら、まるで下痢気味の蒸気機関車のような音を立てて
カップの1/4ほどのエスプレッソを恵んでくれた。

サイコー。貧乏ったらしくて。
デミタスカップがないおかげで、惨めな気分満点になった。
もう恥も外聞もそっちのけで続けざまに更に2回抽出ボタンを押して、
超大盛りエスプレッソを獲得。
もの凄く熱いのを我慢して、花柄のカップを両手で包み隠して席に戻る。
いかに予約不要とは言え、もう2度と「ファミリー」と但し書きのつくレストランに入らない事を
堅く心に誓う。

********************************

帰宅後、嫁が図書館に用事があるというので、同行する事にする。
ハードボイルドが本と親しんじゃいけないと言う法律はない。
嫁と颯一郎は絵本を。僕はハードな社会系の小難しく分厚い本を、
久しぶりの図書館で2冊ほど借りる。

その帰り道。
突然の豪雨に見舞われた。
傘を持たぬ僕らは、小さな公園のちょっとしたひさしの下で雨宿り。
軒から滝のように流れ落ちる大量の雨水に、先日はじめて体験した雷雨を思い出したのか、
颯一郎が帰りたいとワンワン泣き始めた。

彼をあやしたりしながら、こんなに近くで我が子の泣き顔を見るのは随分久しぶりだなと思った。
ここ数ヶ月、仕事に没頭していたため、僕が見るのは寝顔ばかりだった事を悔やんだ。
本当は颯一郎もこんな顔を僕に見せたいはずはない。

嫁が今朝からずっと言っていた言葉が耳に蘇る。
「今日はね、颯ちゃんもの凄く嬉しいみたいよ。ずっとパパといられて。」
そう言えば、彼は朝から僕に笑顔しか見せていない。それもとびっきりの。

あんなにまずいファミレスのレトルトランチでも、家族の笑顔があれば
それは銀座のマキシム・ド・パリの食事と大差ないほど極上のものになる。
家族の笑顔というのは、本当に石をダイヤに、泥水を極上スープに変えてしまうのだ。
まるで、魔法・・・いや、奇跡だよ。

********************************

雨上がりの帰り道。颯一郎にちょっとした寄り道のサービスを。
駒沢公園の広場で補助輪付き自転車に乗せて遊ばせてやった。
慣れぬ自転車と格闘する颯一郎を、遠くからベンチに座って嫁と見守った。
ハンドル操作も、ブレーキの扱いも、ペダルの漕ぎ方も、
何もかも思うようにはいかないけど、それでもこの時を全身全霊で楽しんでる彼を見ながら
嫁と久しぶりにゆっくり話した。

「ね。どうして写真とかビデオとかってあるんだろ?」
「は?何言い出すのよ、急に。」
「今時はさ、何でも記録として残せるだろ?
 でもさ、何でも忘れていく事が人間の宿命じゃないかと思う時があるんだよな。」
「それって、物忘れが良い事の言い訳のつもり?」

嫁は僕が何を言わんとしているかを、慎重に探るような怪訝な顔をした。

「あのな、例えばスキー旅行に行った時のビデオな?誰が見る?」
「うーん・・・当事者だけ。」
「だろ?せいぜい家族の映像が重宝されるのなんか、どう多く見積もったってたった数十年だ。
 子供だった俺が親になって、そのうち爺になって、そのうちくたばる。
 たったそれだけの、短いスパンさ。
 だったら記録じゃなくて、記憶で十分じゃないかと思うんだ。」
嫁は「よく分からないけど」という顔をした。

ごもっとも。僕だって、よく分かっちゃいない。
ただ、忘れる事が人の宿命だと言うのと同じくらいの強さで、いや、それ以上の強さで
「憶えておこう」とか「目に焼きつけておこう」とするのも人の宿命だと思う。
たった一度の人生という機会。
写真でも映像でもなく、自らの記憶に刻みつけようとするのが、人間だと思う。

もしも自分が与えられた時間を全うして自身の最期と向き合う時、
一本のビデオテープよりも、一冊のアルバムよりも、
さっき見た颯一郎の泣き顔や、今見ているピカピカの笑顔の記憶と共にいたいと思う。
本当に、理屈なんか抜きでさ。
だから最高の一瞬はファインダー越しでもレンズ越しでも、ましてや画面越しでもなくて、
自分のこの目で、この耳で、この肌で感じ、記憶したいと思うんだ。

・・・と、そう言いかけて僕は口を閉ざした。
夫婦、何もかも分かり合える事だけが幸せなんじゃない。
互いを知ろうとする努力に、幸せの鍵はあるような気がして。
そして、もう一つ。
口を閉ざさなければ、「今拝んでる君の横顔だって、サイコーだよ。クソッタレ。」と
うっかり白状してしまいそうな気がして。
勝てる気がしないってのは、こういう事を言うんだろうな。クソ。

とにかく、言いたい。
僕がいて君がいて颯一郎がいる。
台風が近づいてるから大雨も降るけど、こうして晴れたりもする。
世の中醜悪なニュースばっかりだし、仕事は忙しいけど、
僕には君たちの笑顔という切り札がある。

この分厚い雨雲の切れ間から、天に向かって叫びたい。
「神様、どうだ見てくれ!サイコーだ!
 僕は今、奇跡と一緒に生活してるんだぜ!」

そんな心の叫びが、留守番中のジルさんの耳にうっかり届いてしまったかどうかは
定かではないのだが、彼女は僕が帰宅するなりあごの下をポリポリかきながら
「アンタってサイテーでサイコー。」
と、そう言いながら大きな吐息を一つついた。
[PR]
by hinemosunorari | 2007-09-06 03:42 | 日々のよしなしごと | Comments(14)