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鋼鉄の男。・・・2

 『おい。いるかい。
  まだお前は名前をかえていないのか。
  ずいぶんお前も恥知らずだな。
  お前と俺では、よっぽど人格が違うんだよ。
  たとえば俺は、青い空をどこまでも飛んでゆく。
  お前は、くもって薄暗い日か、夜でなくちゃ、でてこない。
  それから、俺のくちばしや爪を見ろ。
  そして、よくお前のと比べてみるがいい。』

                   宮沢賢治「よだかの星」より

孤独なんか、別になんてことなかった。
幼い頃から割と多くの時間を一人きりで過ごしてきた。
母の連れ子という肩書き。
だから、父方の親戚はどこまで打ち解けたとしても、
最後の最後で血がつながっていない現実に何度も直面してきた。
孤独なんか、本当になんてことなかった。

**************************************

「きゅびちゃん、君はどんな本を読むんだ?」
それが、初めて聞いた叔父さんの言葉だった。
父方祖母の一周忌が行われた晩、皆とは離れた場所にいる僕に、
そう言ってウィスキーを勧めてくれた。
僕が大学一年生だった頃の春休み。祖母の故郷、北海道でのことだ。

「思い出がないわけではありません。
 ただ、葬儀や法要と言った場に、どんな顔で臨めばいいのかが、
 僕には分からないのです。」
誰かにそう打ち明けたかった。もしも泣けたらどれほど楽かと思った。
けれど、血縁者以上に悲しむことが僕には出来ず、
努めて表情を消しているしかなかった。

そんな僕を解きほぐすように、おじさんは肉親の死とは関係ないことを語りかけてきた。
抱えている問題を解消できないことは承知して、それでも僕との会話を選んでくれた。
必要以上に心を開かぬようにする僕を、そのまま包んでくれるような器を感じて、
叔父さんとは少しずつ話し合うようになった。

「宮沢賢治は読んだか?」
「はい。以前に何度か。」
「”よだかの星”という作品があるだろ。あれは賢治の最高傑作だ。
 機会があれば何度でも読み返すといい。」

叔父さんはウィスキーをグラスに注ぎ足しながらそう言った。
僕は嘘をついていた。
宮沢賢治の「よだかの星」は、読んだことがあるという程度のものではない。
幼い頃から何度も読み返していて、僕の精神的支柱になっている作品である。
嘘がキリキリと自分の胸を締めつけた。

叔父さんが何故僕に「よだかの星」を勧めたのか、
僕には痛いほどよく分かった。
この作品を僕のような読み方をする人が、
世の中に一体どれほどいるのか、僕には知る術がない。
だが、世に星の数ほども存在する文学作品の中から、
なぜ叔父さんは宮沢賢治の「よだかの星」を選んだか?
そこに想いを馳せる時、伝わる優しさに僕は涙をこらえられず、
泣きながら膝の上の両拳をきつく握りしめていた。

**************************************

悲しみを知るものしか、他人の悲しみを知ることは出来ない。
自分で苦しまぬものが、他人の苦しみなど理解できようはずがない。
僕は昔も今も、常にそう思っている。
現実社会という地獄にいながら、真理に近づこうと魂を燃焼させて飛翔した夜鷹。
それはあらゆる咎からの壮絶な解脱のようであり、
すべての人の人生にあがく姿を模しているように思う。

 『お日さん、お日さん。
  どうぞ私をあなたのところへ連れてって下さい。
  焼けて死んでもかまいません。
  私のようなみにくい身体でもやける時には小さな光を出すでしょう。
  どうか私を連れてって下さい。』
 
                             (つづく)
Commented by osakaken at 2011-09-23 02:48 x
きゅびさん・・宮沢賢治の作品は奥が深くて・・
幼い頃から 何度か読み返しました。
でも思春期 辛くなって閉じてから長く読んでませんでした。
人は何のために生きるのか?己は何なのか?
他人と自分との関係?

知らない事も想像力で補えるかもしれない・・
そんな事も思いますが やっぱり経験かもしれないですね。経験や苦労などは 役に立たないかもしれないけど 無駄にはならない・・。

でも どんな風に経験を積ませるのが良いのか?
未だにワカラズ・・。結局 神様の下さった宿題を逃げないで やるしかないのかな・・。

人の心に寄り添える人に・・口の悪い 単純バカな私でも 最後まで そこだけは 目指したいと思うのです。
何だか 明日は 良い人になれそうな・・(笑)
Commented by masshy85 at 2011-09-23 22:33
鋼鉄の男1、2、と読んでちょっとつらいです。
自分が経験した事しか分からないのですよね、人間て。
わたしは幼い頃にあまり辛い目や悲しい目に遭わぬまま、大人になってしまったのでだめですね。
父が亡くなってからかな、ちょっとは大人になれたのは。
かなり幼い大人なのよね。
Commented by meron33ninja at 2011-09-26 15:50
おじ様は心の優しい方だったのですね・・
かといって他のご親戚の方が冷たいわけじゃないと
思うのです。
たぶん ちょっとした心のひだに気づくかどうか そして その気持ちをさりげなく表すことができるかどうか・・・

たくさんのご苦労をなさって初めてわかることも多いかと
この年になって思いますねぇ・・・
気配りのすすめという本があったけど 結局は相手の立場にたたないと 気配りがちょっと迷惑だったりもしますから・・


でも すべてはご縁かな?と 思うこの頃。
年寄りじみた言い方だけど そんな風に実感できるこの頃です。 

いいも悪いもご縁だなと・・・・・

きゅびさんは すばらしいご両親のもとで 心豊かなご親戚にもめぐまれ 良いご縁のお仕事もされていて 素敵だなぁと おもいますよ!

私も このブログで ちょっとご縁いただきました~!
ありがとうございます~!
Commented by white_001 at 2011-09-27 21:43
きゅびさん、こんばんは♪

素敵な叔父様ですね。

悲しいお気持ちが伝わり、切なくなってしまいます。

まだ、きゅびさんとお知り合いになってから、日が浅いですけど、
ちょびっと、きゅびさんに近づけた気がします。
Commented by hinemosunorari at 2011-10-06 19:00
■大阪ケンさん
すーっかりお返事が遅くなってスミマセン。
神様が下さった宿題を逃げずにやる・・・。
見事な気概だと感嘆します^^

Commented by hinemosunorari at 2011-10-06 19:04
■masshyさん
すーっかりお返事が遅くなってスミマセン。
アラブの石油王のご子息・ご息女とかじゃない限り
悲しい出来事にはみんな遭遇してると思うんです。
忘却も、人間に備わっている、悲しみを乗り越えるための
立派な能力だと思います^^
あぁ、僕はこの能力をとても駆使してますねw
Commented by hinemosunorari at 2011-10-06 19:09
■meronさん
僕のブログを目にとめる人、且つ立ち寄っていく人を
僕自身はとても不思議に思います。
特に今回のような記事はコメントし難いと思うんです。

meronさんは僕がエキサイトブログに引っ越してきた時から
どーしたことか多くの記事を読んで下さり、加えて
律儀にコメントをのこして下さったり、
本当に僕の方こそ一方的にご縁を感じます。

感謝!そしてこれからも宜しくお願いします。
Commented by hinemosunorari at 2011-10-06 19:13
■whiteさん
すーっかりお返事が遅くなってスミマセン。
脳天気な記事に織り交ぜて、
たま~に私的なことや、時事問題に関することや
文学・芸能に関することなどを書いたりします。
こんな超私的な記事でも、身近に思って下さったとしたら
それだけでじゅうぶん嬉しいですね^^
さ、写真のぞきにいこーっと^^v
Commented by masshy85 at 2011-10-06 23:10
meronさん経由でここに来た私ですが、
わたしね、ほんとうに恵まれて育ってると思うの。
しかも鈍い。
意地悪されていても、あまり気付かないみたい。
さすがに最近は分かる様になったけれど。
おかあさんも奥さんもしてないで、
好きな事をしてきたからかな?
鈍いっていうのも才能かもしれないわね。
まわりが飽きれて嫌がらせをしなくなる?
廻りの人に恵まれてるのかもしれない。
meronさんを始めとしてね。

忘却。それもあるかも。
これができないと、行き詰まりっぱなしになりそうね。
Commented by hinemosunorari at 2011-10-07 09:51
■再び、masshyさん
「鈍感力」なる言葉があるくらいですから、
図太く鈍感でいることも大切なことなのですよ。

ふとしたことで気づく、我が身太しと。

・・・オヤジギャグ発射中につき、寒冷注意報です。
masshyさん、笑顔があれば大抵のことは乗り越えられます。
ココロに音楽を、唇にダジャレを!^^v
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by hinemosunorari | 2011-09-22 19:08 | 日々のよしなしごと | Comments(10)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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