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人はパンのみにて生きるにあらず(2)

さて、前回からの話の途中であるのだが、一つ伺ってみたい。
人がその生を実感する時とは、一体いつであろうか。
美味しいものを食べている時や、趣味に没頭している時、お酒を楽しんでいる時、
あるいは自分を(トレーニングなどで)いじめ抜いている時かもしれないし、
他人を(ムチとかロウソクとかで)いじめ抜いている時かもしれない。

ともかく様々な考え方がそこにあるとは思うのだが、僕はこう思う。
人が生を実感する時とは、自分のなすべきことを見つけ、
それに全霊を注いでいる時ではなかろうかと。
それによって自分の存在価値を、他ならぬ自分自身に証明してみせることは、
自分が誰で、一体何者なのかということを見いだすことにつながるからだ。

そう、何よりも大切なのは「全霊を注ぐこと」である。
ダイヤモンドでさえ、磨かなければただの石に過ぎない。
抽象的なことばかり言っていてもよく分からないと思うので、
ここに一つの名言を紹介しよう。

「振付とは?肉体を通じて躍進と心情をリズムとメロラインとハーモニーに託した美学。
 そして、ダンスは肉体的訓練と精神の努力によって生まれる美しい夢である。」

世間一般では全く知られてはいないであろうこの言葉は、
日本の歌謡史を代表する振付師、土居甫氏のものである。
氏を紹介する時に、「今は亡き」と言わなければならないのが本当に残念なのだが、
言葉の端々からにじむ踊りにかける情熱、愛情、いや全霊が、今も僕の胸を揺さぶる。

1993年の夏に「料理昇降機」という芝居の照明デザインを手がけた。
ハロルドピンターの名作を斉藤晴彦さんと小野武彦さんが演じたものだった。
小さな劇場での上演だったが、芝居というもののデザインは初めてだったこともあり、
作品には文字通り心血を注いだ。
後日談ではじめて知ったのだが、公演初日に本番を観た土居さんは
「考え抜かれた見事な照明だった。
 彼は若いけれど、力がある。」
と、方々で賞賛して下さったそうだ。
このことは、後の僕にとって大きな自信となり、財産となった。

普通に生きていて、100%全力で物事にぶつかることなど、そうそうない。
例え仕事でも遊びでも何でも、「全力」にはリスクが必ず伴うから。
普通のバランス感覚を持っている人なら誰でも知っている事だ。
だが、体験として確実に言える。
後も先もなく、全力を賭して体当たりしなければ、決して開かない扉がある。
その扉というのが、人の心である。

93年のあの夏の仕事がなかったら、僕が土居さんに評価されることはなかっただろうし、
あの土居さんに高く評価してもらえたという事実がなければ、
芝居やミュージカルという領域にまで僕が進むことなど、絶対になかった。
いや、もっと端的に言えば、自分のなすべき事に自分が導かれた瞬間であった。

(つづく)
Commented by masshy85 at 2011-01-15 23:34
「自分のなすべき事に自分が導かれた瞬間」
こんな体験をしている人って少ないのではないかしら。

「人の心の扉」確かに、簡単には開かないわね。
今日は哲学者ですね。
Commented by osakaken at 2011-01-16 10:00 x
そこまで 評価される生き方が無いので 書きづらいのですが
よく わかる心持です。
職場で そういう事柄や 人に出会う・・羨ましい!。

私の場合・・育て続けた「家庭」の時間が、自身のバックボーンを育てた場所だったでしょうね。稼ぐ場所も 持っていましたが
無報酬の場所を 幾つか持っていた事も 影響は大きかったと思う・・。
人との出会いを どう増やしていくか・・家庭人の場合 それがキーワードで 豊かな人生の構築に関与するでしょうね。

きゅびさんの お話に勇気を頂き 私も
来週から始まる 写真展の裏方・・頑張ってきます。
Commented by hinemosunorari at 2011-01-17 06:22
■masshyさん
事後報告ですが、リンクをお持ち帰りさせて頂きました^^
コレまではずっとmeronさんの所を経由して行っていましたw
コレでかなり効率アップです^^v
あ、ちなみに僕の場合、哲学と能書きの境目がありません。
空気吸いながら酔っぱらってるようなモノですよ
ドヨォォ─(lll-ω-)─ォォン
Commented by hinemosunorari at 2011-01-17 06:29
■大阪ケンさん
うわわわわ。
長々と書いた僕以上の事をコメントでさらりと言ってのけるあたり、「さすが!!」と手をたたきたくなります^^
大阪ケンさんの言葉はとても地に足がついていて、イヤミじゃなくて、なおかつ素直に共感できるという類い希な特性を持っていると思うんです。
やはり踏んだ苦労の数が全然違うんだなぁといつも感服します。
写真展、駒沢くんだりから応援してますね^^
・・・ちゅーか、今週は神戸に行ってたりしますけど-。
Commented by osakaken at 2011-01-17 08:17 x
神戸にいるんだ~~多忙を承知で申します・・。
今回の写真家達・・どのかたも奥深く 素晴らしいの。
東京在住の方も 二人います。万が一 時間が取れましたら・・
どうぞ どうぞ 覗きに来て下さい。
場所がチントンシャンの 京都四条にある お洒落な映画館。
詳しくは・・http://anatanitutaetai77.blog94.fc2.com/

追伸 いつも 励まして下さってありがとうございます。
「きゅびぶし」の 良き影響大でございます。感謝!
Commented by meron33ninja at 2011-01-18 11:47
土居さんという方はピンクレディイの振付をしてた方ですね!
よくテレビでお見かけしました。
すばらしい出会いを重ね さらに なすべきことをなさった証が今のきゅびさんなのですね~
当然といえば当然だけど でも 誰にでもできることではありませんね・・・私は 永遠に何をなすべきか考えて終わりそうです。なんだか どんでん返しを予想してたのに 感動しちゃうじゃないですか・・・次かな? いや まだ次かな?と
いじわるばあさんの気分でございます~すみません~
Commented by hinemosunorari at 2011-01-20 23:12
■再び、大阪ケンさん
すっかりの遅レスが板についてきました(ノn`*)シクシク・・・
実は今日が帰京日で唯一時間がとれる日だったのですが、
映画館に確認したところ、本日は休演日とのこと><;;
持ち前の間の悪さをこんなところで発揮してしまうなんて;;
残念><!
Commented by hinemosunorari at 2011-01-20 23:22
■meronさん
そうなんです。ピンクレディーの振付が有名ですけれど、
他にも代表作が山ほどあります。
ともかく、僕は不思議と良縁に恵まれておりまして、
こんな三流人間のくせにちょっと常識では考えられないくらい
多くの素晴らしい方々と出会い、お付き合いさせていただいております。
まぁ、その頂点に君臨するのが嫁様なわけなのですけれど。
あ、こんなところでゴマすっても、気づいてもらえませんけどね
(ノn`*)シクシク・・・
Commented by osakaken at 2011-01-24 19:26 x
わざわざ ありがとうございました。そのお気持ちだけで十分に報われた気持ちです。実はね・・とても素晴らしい写真なのに・・観客数がのびない・・力不足で 泣きたい気持ちなんです。ですが・・写真家達 モンク一つ言わないで ただ感謝して下さる・・そこが また辛くて 頭を下げながら通っています。
ありがとう・・きゅびさん!感謝です。
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by hinemosunorari | 2011-01-15 05:23 | 日々のよしなしごと | Comments(9)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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