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別れのメロディー

人間、幾つになっても大好きな人と別れるのはツライものだ。
別れの台詞くらいは、せめて格好良くキメたいなんて思っていたとしてもだ。

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スタンダードの2ビートが心地よく静かに流れるカウンターに並んで座るふたり。
僕と彼女の会話は、まるで泥の川みたいにどうしようもないほど重たく横たわっていた。

「君のことは、本当に大好きだった。
 長いようで短い間だったが、とても感謝している。
 嘘じゃない。」
「あなたの言葉、ただの決まり文句に聞こえるわ。」
「頼むから、そんなことを言って僕を苦しめないでくれ。
 こんな話をすること自体、僕にとってもつらいことなんだ。」
「あら、ほんとうにそうなのかしら?
 ろくに連絡もよこさなかったくせに。」
「本当だよ。信じてほしい。
 ただ、僕らはもう・・・。」
「・・・・・・・。」

曲間の静寂。
針が拾うノイズだけが、やけに渇いて聞こえた。

「もう・・・なに?」
後に続く言葉をうまく続けられずにいる僕を見ないようにしながら、
彼女はコリンズグラスの氷を指でもてあそんだ。

「その・・・つまりいろいろな意味で、タイムリミットを迎えているって事さ。
 仕事だって、人生だって、何にだってリミットがあるだろ?
 すべては、同じ事なんじゃないかな。」
「私が聞きたいのはそう言う事じゃなくて、
 私があなたに言いたいのも、そう言う事じゃないの。
 ああ、もう!お願いだから、あなたが気づいてよ!」

バーテンダーがLPをひっくり返している間、
彼女はグラスを傾けてはカラリカラリと美しい音を立て続けた。
僕は彼女のグラスの中で踊る氷を見ながら言った。

「グラスの氷だって、いつかは溶けて無くなる。」
「ねぇ、お願い。今日はもうこれ以上何も言わないで。」
「氷は氷の役目を終えたから、なくなるんだ。
 僕にも、君にも、同じように役目がある。」
「私はもう何も聞きたくないって言ってるの!」
「だめだ。聞いてくれ。
 僕はこれ以上君を幸せには出来ない。
 君だって同じ事に気づいているはずだ。
 ・・・リミットなんだ。僕たちにとっての。」
「・・・・・・。」

彼女は堅く目をつぶったまま動かなくなってしまった。
握りしめたままのグラス。
氷の溶ける音が聞こえてきそうなくらいだった。

沈黙を破ったのは、ミニーリパートンの歌声だった。
1975年にリリースされて大ヒットした「LOVIN' YOU」
愛することの素晴らしさと切なさとを歌った静かな曲だが、
僕の胸には熱を帯びて届いた。

「わたし、帰る。」
曲を途中まで聴いたところで、彼女は立ち上がった。
「今夜は送ってもらわなくて結構よ。」
後を追おうと両手をカウンターについた直後のその言葉に制されて、
僕は立ち上がるきっかけを失ってしまった。
「さよなら。」
「さよなら。」
つきあいだした頃から意見がちぐはぐだった二人が、
最後の最後は同じ台詞を同時に言って別れた。

終電で家に帰ってみると、彼女から留守電にメッセージが入っていた。
真っ暗な部屋に灯りをつけて、コートを脱ぎながら再生ボタンを押してみる。

「・・・・・言おうかどうしようかものすごく悩みました。
 でも、やっぱりこんなのひどいって思うからメッセージを残します。
 どうして別れ話は今夜じゃなきゃいけなかったの?
 もうすぐクリスマスなのに・・・とか、そんなことを言いたいんじゃないの。
 私は・・・そんな大事な話をする日くらい、せめて左右同じ靴下を履いてきてほしかっただけ。
 あなたの事、きっと毎年12月に思い出すわ。ひどいわね。
 じゃ、さよなら。

 ピー。・・・再生、終了です。」

足元を見てみると、確かに僕は青い靴下と黒い靴下を履いていた。
胸の奥底でミニーリーパートンの清らかな歌声が、ずっとリフレインしていた。

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長年、愛用してきたブログサイトCURURU。
それが11月30日をもって閉鎖すると聞いていた。
いや、閉鎖するはずだった。

仕事がめちゃくちゃ忙しい中、たとえ閉鎖寸前の滑り込みでもいいから、
なにか最後にこのCURURUにおわかれ記事を書きたくて、無茶して帰ってきた。
そしたらどうだ?
来年の3月31日まで、サイト運営は続くことになったそうだ。
アホー!そーゆー事はちゃんと連絡しなさーい(‡▼益▼)

ま、そんなワケで、いつまでたっても格好良いクールな別れ話とは無縁なきゅびでした。
そうそう、ふたさんご息女誕生おめでとう!
やったね!パパ!
Commented by yuzkaz at 2009-12-01 10:27
知り合いの人に、靴下を履き間違えないように?
同じ靴下ばかり買ってる方がいます(´ω`*)
まとめて洗濯しても、履き間違える心配なし♪だそうですよ(笑)

クルルの閉鎖、延期になったんですよね(>ェ<;)
ほんと、おいおいっ!って私も突っ込んでしまいました・・
それならもうちょっとあっちにいても良かったのになぁ(笑)
Commented by まー at 2009-12-01 20:26 x
ふと別れてしまった靴下は再び一緒に歩むことはない。。

大量のかたっぽだけの靴下を「もったいねー」精神で捨てられずにいる私はどうすれば・・?
ナゼこの小さすぎる家の中ではぐれてしまうのじゃ?

そうか・・同じ種類の靴下を買うべきなのね。
Commented at 2009-12-01 20:28 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by hagumi at 2009-12-01 21:53 x
ここだと、今日が奥様のお誕生日である事がわかんないですね・・・

昔、父親の靴下を干したり、たたんだりするのが大嫌いでした。
だって黒か紺かグレーかで・・・同じものを合わせるのが大変だったんですもん。
Commented by ふた at 2009-12-02 14:26 x
ありがと。

未だに小さすぎて病院にいます。
小さい以外は全て元気です。
小さいところだけ、父親に?
あと、髪の毛もフサフサです。

今月中には家に帰ってくるかなぁ。

Commented by hinemosunorari at 2009-12-04 01:17
きゅびよりお返事です
■yuzkazさん
なるほどー!同じ靴下ばっかりなら大丈夫なんですね!
いまさら知って、結構感激してますw
■まーさん
( ̄∇ ̄;) ハッハッハッ 同じところで感心してるじゃないですかw
同病相憐れむですな。
■hagumiさん
そうですかそうですか。お父さんってやつはたかが靴下でも
いやがられる対象になってしまうんですか(ノД`)・゜・。シクシク
今後は裸足での生活を真剣に考えなきゃ><;
■もういっちょhagumiさん
そうなんですよ!実はきゅび嫁様の誕生日だったのですよ^^:
■ふたさん
写真、拝見いたしました!娘かぁー!かわいくなるぞー!!
来週帰京したら、嫁と出産祝い買いに行くから、
リクエストがあれば早めに教えて下さい!^^v
Commented by hagumi-biyori at 2009-12-05 21:17
念のためですけど・・・
私は、お父さんの事嫌ってませんでしたよ~^^
同じコップで水飲めるし、一緒に洗濯されても嫌じゃないしー
中学入ったぐらいまで、一緒にお風呂入ってましたよ♫
嫌われちゃったらですね、裸足は裸足で、足の油がどーのとか
水虫(無くても)がどーのとか、言われちゃったりするもんですよ。
娘に嫌われないようにするのには、お父さんは大変。。。
きゅびさんは息子だからいいけど、ふたさんサンは、これから大変かもですよ^^;
あ、ふたさんサン、お嬢様の誕生おめでとうございますです♪
女の子いいな~!!
Commented by seawolf_squall at 2009-12-15 21:00
あれぇ、きゅびさん、このお知らせは結構前に来ていましたよ。^^
まぁ、ここで長くなっても終わるものは終わるので、
はやいところ、こちらに客を引っ張り込んでください。(笑)
Commented by hinemosunorari at 2010-01-04 00:53
きゅびよりお返事です。
■hagumiさん
 素晴らしい娘さんです!
 世の中のすべての娘さんがhagumiさんのような人だったら
 世のおとうさんはとっても心健やかに暮らせるのにねぇ
 (ノД`)・゜・。シクシク
■シャチさん
 そ、そうだったのですか!!
 と言うお返事自体がすでに半月前のコメントへの返事(-公- ;)
 超・遅レスですみません。
 もっと言えば、年賀メールありがとうございました。
 かなり嬉しかったです! 
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by hinemosunorari | 2009-11-30 23:36 | 日々のよしなしごと | Comments(9)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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