そんな風に本番中に何度も携帯が鳴るのは珍しいことだった。
電話とは不思議なもので、例えマナーモードにしたとしても、
十分持ち主の注意を惹き付けるのだ。
その時の僕は、千葉県文化会館で自分の抱えているコンサートツアーの、
年内最後の本番中だった。
どんな些細な要因であれ、集中を欠いた本番などしたくなかった。
予めマナーモードにしてはいたのだが、振動音が気になって電源を切った。
昼の部の終演後、電話を確認すると留守電が数件残っていた。
実家で両親と暮らす妹からだった。
普段はたいして連絡を取らない近親者から、こう何度も電話があるなんて、
きっとロクな報せではないと思った。
そして、直感は見事に的中した。
サービスセンターに電話をして、伝言を聞く。
メッセージが記録された日時を告げる、無表情な合成音声に続いて耳に入ってきたのは、
多分はじめて耳にする切迫した妹の声だった。
その、どうにかこうにかして絞り出した声が、僕に重大なニュースを知らせた。
母が高所からコンクリートの上に転落したこと。
頭部を強打していて脳内に出血が見られるため、
そのまま集中治療室へ搬送されたこと。
なんて事だ。
1時間後にはコンサート夜の部の本番がある。
タレントは間もなく化粧に入るし、会場の外には大勢のお客さんが列を作って待っている。
自分が責任を持ってやっているショーだから、僕の代役などいるはずはない。
会場を去ることなど、到底考えられなかった。
僕はひとりになれる場所に行き、温かいコーヒーを飲みながら考えた。
母は決して若くはない。
だが、頭を打ったからと言ってそれが死に直結するわけでもない。
必要以上に絶望したり興奮しないように、まずは自分をどうにか冷静にコントロールすることが、
一番重要だった。
脈拍がいつもより早いのが自分でも分かる。
知らずに力一杯握りしめていた手の平は、じっとりと汗で湿っていた。
落ち着こう。
艦長が航海中の自分の船を放りだして家に帰るだろうか?
それと同じで僕にとっても目の前のショーが全てなのだ。
「まず、仕事を片づけよう。」
こういう結論は頭では分かりきっていたのだが、時間をかけて本当に決意することが出来た。
そして、時間は来てショーがスタートし、僕は集中してやり遂げた。
今年最後の本番と言うだけあって、タレントもバンドも観客も我々スタッフも、
とても気持ちの入った素晴らしいショータイムだった。
終演。
客席の照明を全灯させる自動ボタンを叩きながら、
同室していた上司に緊急事態を告げ、撤去作業一切のことを頼むが早いか、
僕は上着と鞄を掴んでタクシー乗り場へと全力で走り出した。
何故か耳の底の方で、ガキの頃に母に怒鳴りつけられた時の、
僕の名を呼んで叱る母の声が、何度も何度も繰り返し響いていた。
電話とは不思議なもので、例えマナーモードにしたとしても、
十分持ち主の注意を惹き付けるのだ。
その時の僕は、千葉県文化会館で自分の抱えているコンサートツアーの、
年内最後の本番中だった。
どんな些細な要因であれ、集中を欠いた本番などしたくなかった。
予めマナーモードにしてはいたのだが、振動音が気になって電源を切った。
昼の部の終演後、電話を確認すると留守電が数件残っていた。
実家で両親と暮らす妹からだった。
普段はたいして連絡を取らない近親者から、こう何度も電話があるなんて、
きっとロクな報せではないと思った。
そして、直感は見事に的中した。
サービスセンターに電話をして、伝言を聞く。
メッセージが記録された日時を告げる、無表情な合成音声に続いて耳に入ってきたのは、
多分はじめて耳にする切迫した妹の声だった。
その、どうにかこうにかして絞り出した声が、僕に重大なニュースを知らせた。
母が高所からコンクリートの上に転落したこと。
頭部を強打していて脳内に出血が見られるため、
そのまま集中治療室へ搬送されたこと。
なんて事だ。
1時間後にはコンサート夜の部の本番がある。
タレントは間もなく化粧に入るし、会場の外には大勢のお客さんが列を作って待っている。
自分が責任を持ってやっているショーだから、僕の代役などいるはずはない。
会場を去ることなど、到底考えられなかった。
僕はひとりになれる場所に行き、温かいコーヒーを飲みながら考えた。
母は決して若くはない。
だが、頭を打ったからと言ってそれが死に直結するわけでもない。
必要以上に絶望したり興奮しないように、まずは自分をどうにか冷静にコントロールすることが、
一番重要だった。
脈拍がいつもより早いのが自分でも分かる。
知らずに力一杯握りしめていた手の平は、じっとりと汗で湿っていた。
落ち着こう。
艦長が航海中の自分の船を放りだして家に帰るだろうか?
それと同じで僕にとっても目の前のショーが全てなのだ。
「まず、仕事を片づけよう。」
こういう結論は頭では分かりきっていたのだが、時間をかけて本当に決意することが出来た。
そして、時間は来てショーがスタートし、僕は集中してやり遂げた。
今年最後の本番と言うだけあって、タレントもバンドも観客も我々スタッフも、
とても気持ちの入った素晴らしいショータイムだった。
終演。
客席の照明を全灯させる自動ボタンを叩きながら、
同室していた上司に緊急事態を告げ、撤去作業一切のことを頼むが早いか、
僕は上着と鞄を掴んでタクシー乗り場へと全力で走り出した。
何故か耳の底の方で、ガキの頃に母に怒鳴りつけられた時の、
僕の名を呼んで叱る母の声が、何度も何度も繰り返し響いていた。
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☆ふーが
at 2007-12-03 01:26
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同じようなことがあったので、とても人事とは思えません・・・・
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ふた
at 2007-12-03 11:25
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あんこ
at 2007-12-03 19:57
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スシファイ
at 2007-12-03 21:52
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いやーーーーー、本当にいつも怒鳴りつけられてたけど・・・。マジで?おふくろさん大丈夫?
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きゅび
at 2007-12-04 23:03
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■ふーがさん
そうだったのですか><;
報せを聞いた時には、こちらが生きた心地がしませんでしたよ><;
■ふたさん
担当医は単純に、奇跡だと言っていたよ。普通ならまず死んでるって。
ま、追々書きますけどね^^;;
■あんこさん
ご心配をおかけしております。命に別状はないですよ^^奇跡的に。
■スシファイさん
最近じゃめっきり怒らなくなったからさ、ちょっと寂しい気もするねw
そうだったのですか><;
報せを聞いた時には、こちらが生きた心地がしませんでしたよ><;
■ふたさん
担当医は単純に、奇跡だと言っていたよ。普通ならまず死んでるって。
ま、追々書きますけどね^^;;
■あんこさん
ご心配をおかけしております。命に別状はないですよ^^奇跡的に。
■スシファイさん
最近じゃめっきり怒らなくなったからさ、ちょっと寂しい気もするねw