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銀次のこと。(三)

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ドタバタとは、文字通りドタバタだった。
当時借りていた部屋は、ペットが飼えなかったから引越さなければならなくなった。
引越し資金などは全く無かったので、アルバイトを増やした。
大学が終わるとそのまま体育館に行き、バスケットの練習をして、
練習が終わるとそのままアルバイトに行き、アルバイトが終わると誰と飯を食うでもなく
一目散に家に帰って銀次と遊んだ。
それが僕の毎日だった。
フラレた女の子のことを考えたり、新しい女の子を追いかけたりする暇など無く、
生活すべてが銀次中心へと、あっという間にシフトしていった。

さて、その銀次。これが信じられないくらい頭が良かった。
僕が帰宅すると何故か必ずドアの前で待っていたし、トイレも食事の場所もすぐに覚えた。
テニスボールが大好きで、自分の体と大して変わらないボールにいつもじゃれついていた。
犬のように「お手」をすることもできたし、
「銀次、ジャブ!」というと、手のひらめがけてパンチを放つこともできた。
名前を呼べば「ニャー。」と返事をして寄ってくるし、
「銀次、しっぽ!」というと、ちっこい尻尾をパタパタと振ったりもした。
家の外には一歩も出たことが無かったけど、銀次のなかの世界、すなわち僕の家では
銀次にとって僕が全てだったし、僕にとっては銀次が紛れもなく全てだった。

そんな生活の中、銀次に謝らなければならないことが起きた。
一緒に寝たり起きたりをするようになって、2ヶ月ほど経った頃のこと。
外の寒さも幾分緩んだことだし、銀次の体調もすこぶる良かったので
一度動物病院に連れて行って、ワクチンなり予防接種なりをしっかりとうっておこうと思った。
その動物病院での基礎検診中、先生が急に顔を上げた。
先生は一度カルテを見て、銀次を見て、僕を見た。
そして言った。
「きゅびさん、どうやら銀次クンは女の子です。」

言葉が出なかった。
それほど先生の一言は衝撃的だった。
銀次はすでに銀次だった。
頭のいい子だったから、自分の名前はしっかりと認知していた。
そしてそのプライドゆえに、他の名前ごときには一切反応しなかった。

そして何よりも、僕の中では銀次は立派な男であり、飯を食うときも一緒に寝るときも一緒に遊ぶときも、
たえず「男」として接してきた。
それはひとえに「男」いや、「漢」としての矜持をまとった、
誇り高い立派な猫に育ってほしかったからだ。
いまさら急に実は女ですといわれたところで、そう簡単には引っ込めないのだ。
いや、引っ込むどころか、実際のところは出っ張っていなかったから、
やはり「女」だったとしか言いようが無い。

その日は泣きながら家に帰って、銀次に土下座してわびた。
帰るなり自分の親から正面切って土下座されて、
銀次もさぞかし気持ち悪かった事だろうが、それよりほかにどうして良いか分からなかった。

思えば、カブトムシと鈴虫はオスとメスを気にする必要など全然無かった。
見捨てられるという哀れな境遇を共有できてしまったがために、
すなわち僕の全くの主観で、銀次は出逢った瞬間から、
いや、厳密に言えば僕の家族になったあの決意の瞬間から、
いずれは僕と対等に理解し合える「漢・銀次」以外の何者でもなかったのだ。
まぁ、どれほど篤い想いがあったところで、言い訳にもならない。

何日かは「銀ちゃん」と呼んだり、「お銀」と呼んだりもしてみたのだが、
結局は銀次は銀次だったので、「男気に溢れたイナセな女猫・銀次」の誕生
と言う形で一段落してしまった。



                                      つづく



」」」」」当時のコメント」」」」」

スシファイ 雌だったの??知らんかった。可愛がってたよなー。その他言いたいことはあるが、これからの話の展開を邪魔してはならんので、またそのうち。で赤子は何時頃出てくんだ? ()
2005/02/11 21:59

はむねこさん あ・・・完結してると思ったら、続きがあるようです・・・(* ̄  ̄)・・・
ジルさんが、この記事を読めたら・・・心からほっとしてそうですね^^
2005/02/11 23:29

きゅび
■すしふぁいさん
 子供は、どうやらまだ出て来ないっぽい。(嫁談)
 ところで、「その他言いたいこと」ってのは、本文8行目のことか?それも後半。
 だとしたら、ノーコメントです!!    ( ゚∀゚)・∵. ブハッ!!
■はむねこさん
 なんか、長文は書かないといっていたのが、ついこの前のような気がします><;
 ジルについては、ナイス考察ですね^^
2005/02/12 12:51

ririka34 私も拾ってきた時、ミーコ中心の生活でした~ 他の事は頭にはいらない
のですよね! って・・・銀次ちゃん、女の子だったのですね!Σ(・ω・ノ)ノ!
2005/02/12 14:25

ぴの彦 女の子だったのねー!!(゚ロ゚;ノ)ノどんどん次へ進みます♪
2005/02/12 17:38

m⇔k Σ(゚ロ゚」)」おぉ 衝撃ですな。次に行く!スタタタタタッ(((((((((((*゚.゚)ノノ
2005/02/13 10:58

きゅび
■ririka34さん 
 やはり、仔猫なんかが急に家に来ると、間違えなく一躍主役になりますね^^
■ぴの彦さん
 はい。不覚でした。物凄く反省しています。
■m⇔kさん
 滑りやすくなってるかもしれません。お気をつけて!あ、バナナの皮が!
2005/02/13 16:39

☆やすたん★ どうして気がつかなかったのかがとても不思議ですww
2005/02/28 02:57
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by hinemosunorari | 2005-02-11 21:26 | 日々のよしなしごと | Comments(0)

洒落と知性と愛そして無駄の織りなすブルース。


by きゅび
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